「当たり前の営業時間を見直してみる」
広島市から東に車で1時間ほど、福山市との間に竹原市というまちがあります。以前NHK連続テレビ小説『マッサン』の主人公のモデルとなったニッカウヰスキーの創設者・竹鶴政孝の生家だった酒蔵などが、重要伝統的建造物群保存地区として美しいまち並みを残しています。
この竹原市に「御幸(みゆき)」という老舗のお好み焼き屋さんがあります。1972年の創業から50年以上にわたって地元のお客さんに支えられてきました。広島のお好み焼きといえば、クレープのように薄く敷いた生地の上に大量のキャベツや中華麺、豚肉や海鮮などを乗せてつくるのが一般的です。御幸では、創業者が大阪で修業したこともあって、キャベツなどを混ぜ込んだ生地をホットケーキのように厚く焼く、関西スタイルのお好み焼きも提供しています。
御幸では先のコロナ禍を機に、ほかの店と同様、家で食べられるメニューを強化しました。通常通り鉄板で焼き上げたお好み焼きを冷ました後、適度に水分を吸収する専用容器に入れ、真空パックにしたものを急速冷凍します。冷凍の商品ラインアップを持ったことにより、クール便での通販のほか、あらかじめ商品を送って催事や出張販売に遠くまで行くことが可能になりました。ここまではコロナの影響を受けたほかの多くの飲食店にも共通する話です。
御幸が面白いのは、コロナによる落ち込み期間が明け、多くの飲食店が通常営業に戻す中、「コロナによって自宅での飲食が当たり前になったお客さんの消費行動は元には戻らない」という判断に基づいて、店舗の営業時間を大幅に短縮したところです。具体的には、夜営業をやめ、ランチ営業を16時までとし、19時まで通販やテイクアウトで販売するためのお好み焼きをひたすら焼くという営業スタイルに変えました。16時以降は、テイクアウトの注文には対応しますが、接客を伴う食事提供の営業はしません。
商品は提供するけれど、サービスとして人手のかかる時間と空間の提供を減らし、その分を店舗であれ通販であれ「わざわざ買いにきてくれる客」のためのものづくりに充てるというビジネスモデルの転換を試みました。同時に、ウェブサイトやSNSなどを通じ、商品の魅力やくつろぎの雰囲気などを伝える情報発信を充実させることにも取り組みました。家庭的で老舗のお店が持つ懐かしい世界観を表すキャラクターを中心に、デザインテイストやコミュニケーションに一貫性を持たせ、きちんとブランディングしました。
情報発信の強化と並行して、広島県のアンテナショップを通じて東京や大阪など、遠方の都市部へ積極的に営業や出張販売に出かけ、地道に遠隔地のファンを増やしていきました。
客の理解や定着まで少し時間はかかったものの、夜の営業をやめたことで逆に昼の営業時間は混んできました。土日には駐車場に県外ナンバーの車が多く押し寄せ、行列ができる店になっています。人手不足の中で限られたリソースを効率的に使い、次世代につながる事業への転換も見据えて取った作戦が「当たり前の営業時間を見直す」だったのです。
地域経済アナリスト/コンサルタント
渡辺 和博
◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ
合同会社ヒナニモ代表。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌の編集を担当。その後、日経BP 総合研究所 上席研究員を経て、2025年4月から現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。
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