中小企業のためのDX事例

コラム

「医師が自ら手掛ける現場のDX」


 今回は、医者が立ち上げたプログラミングスクール「もいせん(ものづくり医療センター)」の事例です。東京都足立区にある足立慶友整形外科の北城雅照医師が立ち上げた「もいせん」は、医療従事者がテクノロジーを学ぶことにより、自らの手で現場の課題を解決する力を育てる、日本初の医療者向けプロトタイピングスクールです。医師や看護師、リハビリ職など多様な医療従事者がプログラミングやIoT、AIなど幅広い技術を学び、自らの課題意識に基づいたツールを開発しています。
 最大の特徴は、医療者自身が「現場目線」で課題を捉え、それに合った解決策を自らつくり出すマインドを醸成する点です。これまで医療現場のIT導入は、外部ベンダーにお願いすることが一般的でしたが、現場の実情に即していないサービスや細かなニュアンスが伝わりづらいという課題がありました。「もいせん」は、まさにそのギャップを埋める存在として誕生したのです。
 例えば、耳鼻科医が制作した「耳鳴りを可視化するLINEボット」は、患者が自分の症状をうまく伝えられないという課題を解決しようとしています。さらに、小児科領域では「頭をぶつけた子どもが病院に行くべきか迷う親向けの判断支援ボット」がつくられ、救急医の知見が反映されています。理学療法士が開発した「歩行バランス測定ツール」は、IoTデバイスでリハビリ中の患者の重心や可動域を自動計測する仕組みで、評価作業の効率化に貢献します。また、「離れて暮らす家族を見守るIoTセンサー」は、遠方に住む高齢の両親の体調変化をLINEで通知することで、在宅介護の不安を軽減します。
 開発した医療従事者の多くはプログラミング未経験で、受講をきっかけに開発の魅力に目覚め、卒業後も自らの制作活動を続けている受講生も多く、志を同じくする卒業生とのつながりを生み出すコミュニティとしての機能も持っています。ハッカソン(短期間でアイデアを形にする開発イベント)やDEMO DAY(成果発表会)などを通じて、学びを共有し合い、互いに刺激を受けながら成長していく姿が見受けられます。
 医療者が当事者として現場を変える力を持ち始め、これからさらに現場にフィットしたDXが実現されていきます。中小企業の皆さまにとっても、業界や職種を問わず、「現場で働く人が自らデジタルを学び、つくり、使う」モデルとして、参考になる事例です。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)

ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史

 

◇大川 真史/おおかわ・まさし

 ウイングアーク1st データのじかん 主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。デジタル化による産業構造転換や中小企業のデジタル化に関する情報発信・事例調査が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。経団連、経済同友会、経産省、日本商工会議所、各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。