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コラム

「地方圏からの預金流出のメカニズムとその影響」


 地元住民が保有する地域金融機関の預金は、地域経済において重要な役割を果たしている。地域金融機関の金融仲介によって、預金は主に地元の産業、企業への貸し出しなどに活用されることで、地域の「稼ぐ力」を資金面で支えている。ただし、少子高齢化が急速に進展している地方圏の県では、人口および世帯数の減少と相続によって、地域経済を支える原資である預金が県外に流出している。預金が流出しても金融仲介が機能し続ければいいが、預金基盤が減少していくことで、地域金融機関が既存の組織・システムを維持・改善するコストが賄えなくなり、収益性が低下していけば、金融仲介機能を効果的かつ効率的に働かせることが難しくなる。
 地域金融機関の預金の流出先には、人口が集中し、相続人が多く居住している首都圏が挙げられよう。流出する経路としては、以下の三つが挙げられる。まず、地域金融機関から国内全域をカバーする都銀への預金のシフトである。日本銀行の「貸出・預金動向」のデータで銀行業態別の預金残高の変化率を見ると、銀行業態(ここでは都銀、地銀、第二地銀、信用金庫)を問わず、”コロナ預金”(2020年度から21年度にかけて政府の給付金などにより急増した個人の普通預金)の反動で伸び率は低下傾向にある。特に信用金庫と第二地銀の伸び率が低下している。その結果、銀行全体の預金残高は増加しているものの、コロナ禍を経て銀行業態の中で都銀がシェアを唯一伸ばしている[注1]。このため都銀へのシフトが進んでいると考えられる。この主な理由として、相続によって地方圏から都市圏に流出した預金の受け皿となっていること、地域金融機関などのデジタル化が相対的に遅れている、もしくはその効果が低いこと、などが挙げられよう。
 第二の流出経路として、地域金融機関からネット銀行への預金の流出である。銀行業界全体ではコロナ禍に預金残高は増えたものの、同時にネット銀行も台頭した。この傾向が現在も続いており、最近のネット銀行主要6行[注2]の預金残高合計は20 年から24年で1.9倍となった(各社決算データより)。とりわけ、コロナ禍以降の成長が著しい。銀行全体の預金規模(24年度末時点で約1000兆円)[注1]からすれば比率的には小さいものの、24年3月期の主要ネット銀行の預金残高合計は最大手の地銀をしのぎ、34兆円を超えている。
 第三の流出経路としては、地域の中小企業を中心とする法人の預金口座から、ネット銀行あるいはメガバンクの提供する法人預金口座への移行である。東京商工リサーチ[注3]によれば「ネット銀行が『メインバンク』の企業が急増」しており、「2013年はわずか665社だった」が、「2018年は1,751社、2023年は4,322社と、コロナ禍を含む5年間で約2.5倍に増えた」としている。高い利便性と安い手数料などでメインバンクに選ぶ企業が増え続けている。加えて、SMBCグループの「Trunk」は中小企業向けの口座・カードを軸としたデジタル総合金融サービスで、このサービスを通じ、法人預金口座についても粘着性の高い預金を獲得することを目指している。地域金融機関にとっては脅威となろう。
 以上三つの流出経路を踏まえると、預金基盤の主導権争いは、預金が相続によって地方圏から都市圏への移行が進む、あるいはネット銀行へのシフトが進む中で、地域金融機関と都銀、都銀とネット銀行の間で、本格的に激化していくであろう。この背景には、ネット銀行による金融ビジネスのオープン化(≒標準化)、すなわち”地域”のオープン化と金融プラットフォームのオープン化がますます進展していくことがある。とすれば、将来的に「地域×銀行=地域銀行」という方程式が成り立つのかという懸念が高まっている。今後は、「オープン化する世界」と従来型の「クローズした銀行の世界」とのはざまにおいて、オープン化する世界に参入しながらも、収益を上げて地域の金融仲介機能を維持していくことができるかが、地域金融機関に試されているといえるのではないか。

(7月18日執筆)

[注1]大和総研調査季報2025年夏季号「金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり~預金を制するものは金融業界を制す~」内野逸勢、森駿介(25年7月24日)p.46参照。https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/it/20250724_030167.html
[注2]預金残高1兆円超規模の銀行であるPayPay銀行、ソニー銀行、楽天銀行、住信SBIネット銀行、auじぶん銀行、大和ネクスト銀行。
[注3]東京商工リサーチ「2023年『ネット銀行メインバンク』調査」(23年8月24日付)

株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員
内野 逸勢

◇内野 逸勢/うちの・はやなり

 静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。「第3次袋井市総合計画」審議会委員。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。