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コラム

「大規模な地銀誕生による業界再編なるか」


 前回のコラム「地方圏からの預金流出のメカニズムとその影響」では、地方からの預金流出が地域金融機関の果たすべき金融仲介機能とビジネスに与える影響に言及した。今回は、それを踏まえた上で、地域金融機関、特に上場している地域銀行(上場地銀)の再編の方向性について触れていく。上場地銀でも「預金流出メカニズム」によって、今後、預金基盤=顧客基盤の減少が見込まれていく。このため、将来的に、上場地銀は単独で、効率的かつ効果的な金融仲介機能を果たし、自行のビジネスを成長させることが困難になると想定される。とすれば、他行との統合や合併により預金基盤を拡大して、規模の利益を追求し、経営基盤の効率化を図り、企業価値を向上させることが必要となろう。過去にも何度か地域銀行(地銀)のオーバーバンキング(銀行数が多すぎる)問題、地銀の経営の持続可能性に対する懸念などにより、その再編が注目されたが、最近の地銀の再編では、企業価値向上こそがキーワードとなる。
 上場地銀の企業価値の代表的指標としては、株価÷1株当たり純資産(=純資産÷発行済み株式数)で求められる「PBR(株価純資産倍率)」が挙げられる。株価が1株当たり純資産の何倍ぐらいの水準にあるかで企業価値を測定するものである。通常、1倍以下、つまり株価≦資産の簿価(1株当たり純資産)の場合、企業価値が低いといえる。日々の株価が変動するため、一概にはいえないが、大部分の上場地銀のPBRは、1倍を大きく下回っている。これらを踏まえて、上場地銀のPBRと預金残高の二つの関連性を見る散布図において関係の強さを示す決定係数に着目すると、5年前(2020年3月末)の0.05と比べて、直近(25年3月末)では0.56となり、預金残高が大きくなるほど、企業価値が高い関係があることが分かる[注1]。
 直近の散布図において、上場地銀の預金残高の大きい順から、第1グループ(預金残高が約16兆円から約20兆円)、第2グループ(約8兆円から約14兆円)、第3グループ(約7兆円以下)の三つに分類し、上場地銀同士の再編のシナリオを以下に三つ想定した。最近の上場地銀同士の統合などの再編の事例によると、第2グループの上場地銀同士の統合が見られ、その結果、第1グループに分類される上場地銀が誕生した。つまり、第2グループが第1グループまで預金規模を拡張する戦略、これが上場地銀の規模拡大の第一シナリオである。第二シナリオとして、第1グループの地銀が県内の上場地銀、あるいは隣県・他県の上場地銀を傘下に収める拡張戦略である。将来的には、第一シナリオ、第二シナリオを軸に拡張戦略が取られると想定される。第三シナリオとして、第1グループに属する地銀同士、あるいは第1グループと第2グループの地銀の統合による預金残高が30兆円程度の地域を超えた大規模地銀、いわゆる”スーパー・リージョナル・バンク”の誕生である。これは、過去の地銀統合の事例にはない、想定外の統合も含まれよう。ちなみに、前記の地銀のPBRと預金残高の散布図から近似曲線を伸ばしていくと、32兆円程度でPBRが1倍を超えてくる。
 規模だけ大きいスーパー・リージョナル・バンクの誕生だけでは、長期的な上場地銀の生き残り戦略としては十分とはいえないのではないか。例えば、すでに50兆円を超える預金残高を有するりそなホールディングスは、りそな銀行と埼玉りそな銀行を軸に、都市部の地銀を傘下に収め、また、地銀にバンキングアプリ[注2]や資産形成商品などを提供すること(=地銀にテクノロジー、金融商品を提供するプラットフォーマーの役割)を通じて連携することで、リテールの預金基盤を拡大していく戦略を取っている。まさに、同社は大手銀行グループでありながら”スーパー・リージョナル・バンク”としての事業モデルを進化させている。このことから、今後誕生する可能性のある”大規模地銀”の企業価値向上を目指す先駆的存在といえるのではないか。

(8月20日執筆)


[注1]内野逸勢、森駿介「金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり~預金を制するものは金融業界を制す~」大和総研調査季報2025年夏季号(Vol.59)、p.40図表2参照。https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/it/20250724_030167.html
[注2]銀行の預金口座などの利用者がスマートフォンやタブレットを使用して預金口座を管理し、自身の金融資産、負債の状況を表示し、決済などの取引を実行できるようにするためのソフトウエア・アプリケーション。

株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員
内野 逸勢

◇内野 逸勢/うちの・はやなり

 静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。「第3次袋井市総合計画」審議会委員。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。