潮流を読む「日本の株式市場上昇の持続性が試される2024年」

コラム

 2024年に入り、日本では、好調な企業業績などを背景に1月15日の日経平均株価が1990年2月以来、33年11カ月ぶりとなる3万6000円台に乗せた。

 23年の日経平均株価の年初来騰落率は30.1%(23年1月4日の25716.86円から23年12月29日33464.17円)、TOPIXは同26.7%(同1868.15 から同2366.39)となり、両指標とも大幅に上昇した。23年3月の東京証券取引所(東証)のガイダンスを受けた低PBR(株価純資産倍率)の改善をはじめとする国内企業の構造改革期待や、5月に新型コロナウイルス感染症の5類移行を背景とするインバウンド需要回復による国内経済の後押し、緩和的な金融政策の継続見通しなどを材料に上昇した。さらに生成AIブームを背景に成長株を物色する動きも加わった。TOPIXは9月には33年ぶりの高値を更新した。その後、米インフレの落ち着きや、景気の「ソフトランディング」見通しが高まり、日米企業の堅調な企業業績なども支えとなって、TOPIXは大幅に上昇した。

 24年年初の日本の株式市場の好調を、年間を通じて支えていく構造的な要因としては大きく二つあると考えられる。その一つは、1月から始まった「新しいNISA」(新NISA)が「貯蓄から資産形成へ」の本格的なシフトを進めていくことへの期待である。ただし、現状では家計の金融資産残高に占める現金・預金残高は5割を依然超えている。日銀が昨年12月20日に公表した資金循環統計(速報)では、昨年9月末時点で家計の金融資産残高は2121兆円、そのうち現金・預金残高は1113兆円(前年比1.2%増)と全体の52.5%を占めている。他方、投資信託は101兆円(同4.8%)、株式等は273兆円(同12.9%)となり、市況の上昇もあって、前年比では、それぞれ17.4%、30.4%増加している。日本証券業協会が発表した23年1~9月の旧NISA口座での買付額(全証券会社対象)は、全てが日本株に投資されたわけではないが、一般NISAで2兆7300億円、つみたてNISAで8869億円となった。新NISAでは年間投資枠の拡大(一般NISAの120万円は成長投資枠の240万円と2倍に、つみたてNISAの40万円はつみたて投資枠の120万円と3倍に)が図られている。これらを踏まえると、24年には個人投資家による日本株投資が増加する可能性が高い。

 もう一つは、前述したように昨年の市況上昇の要因となった上場企業の企業価値経営の取り組みにおける具体的な対応策の開示である。24年1月からは東証が、プライム市場とスタンダード市場に上場する全ての企業を対象に、低PBR改善をはじめ、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて、具体的な改善策や対応策を開示した企業の一覧リストを毎月公表することになっている。その第一弾が24年1月15日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況として公表された。それによれば、「プライム市場の49%(815社)、スタンダード市場の18%(300社)が開示(検討中を含む)」した(23年12月末時点)としている。さらに、プライム市場の3月期決算企業に限定すると、「59%(673社)が開示(検討中を含む)」されており、23年7月時点の31%から倍近くまで増加したとしている。東証は、開示する企業数の増加を促すとともに、投資家・株主の視点から高評価を得た事例を公表し、開示の質の改善を促進していくことを予定している。このため継続的に日本企業の経営改革に対する姿勢を評価する動きや、日本株全体を底上げする動きにつながっていくことが期待できる。

 その一方、日本の株式市場のボラティリティが高まる可能性も否定できない。その背景には、米国では、金融引き締め継続の可能性が残りつつ、金融政策の順調な緩和のシナリオがあり、その上で景気のソフトランディングシナリオが依然不安定なことがある。このため、性急すぎる利下げ期待を織り込んで株式市場がポシティブに過剰反応すると、景気のソフトランディングシナリオが崩れた場合、その反動が日本の市場にマイナスの影響を与える可能性が残る。

 いずれにしても、今年は古くて新しい構造的な課題である「貯蓄から資産形成への本格的なシフト」と「企業価値経営の定着」による日本の株式上昇の持続性が試される1年となるだろう。

(1月19日執筆)

 株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員  内野 逸

 静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。