「作業ログ見える化で設備稼働27%アップの工場事例」
今回は、現場の作業ログをデジタル化して進捗(しんちょく)と負荷を見える化し、限られた設備の稼働時間をぐっと押し上げた事例です。東京都羽村市にある杉並電機株式会社は、電子機器向けコネクタの金属端子を少人数で大量生産する精密プレスメーカーです。
数年前まで社内では「どの仕事が先か分からない」「昨日のトラブルがまだ尾を引いている」といったモヤモヤが積み重なり、職場の空気を重くしていました。
そこで同社は、最新IoTで機械から大量のデータを集めるのではなく、生産現場の担当者を起点にデータを集めて可視化する”IoP(Internet of People)”のシステム化に着手しました。各工程に開始・終了ボタンを用意し、押すだけで担当者や品番、使用機械が社内のウェブシステムに登録されます。データは色分けされ、工場の壁に設置したプロジェクターに映し出されます。どの機械が詰まりそうか、どこに応援を回せばよいかが一目で分かるようになりました。
入力定着のために、作業開始時間の早さを競うイベント「SP杯」を行いました。この企画を通じて「作業開始ボタンを必ず押す」習慣をゲーム感覚で根付かせました。その結果、設備稼働時間も27%増加し、「次に何が来るか事前に分かる」「困ったときに助けを頼みやすくなった」という声が現場から上がりました。
その後、市販の小型IoTデバイスを使い、状態変化が自動でクラウド上の表に飛ぶ仕組みを社内で開発したり、検査・修理室に大型モニターを設置して現場とさまざまな情報を共有できるようにしたりしました。さらに社員向けにIoTの開発体験会を実施し、現場がデジタル化の中心であるという認識を浸透させました。
社長は、これらの取り組みを「生の情報をそのまま皆で共有する仕組み」と表現します。解釈を加えずタイムラインで見せることで、現場が自律的に判断しやすくなり、従業員体験の向上にもつながったと感じているそうです。大がかりなシステム導入ではなく、身近なツールの組み合わせから始めた点は、多くの中小企業にとっても参考になります。まずは「誰の、どんなモヤモヤを解消したいのか」を起点に、現場の人が参加しやすい小さなDXから着手することが、継続するデジタル化の近道だといえるでしょう。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史
◇大川 真史/おおかわ・まさし
ウイングアーク1st データのじかん 主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。デジタル化による産業構造転換や中小企業のデジタル化に関する情報発信・事例調査が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。経団連、経済同友会、経産省、日本商工会議所、各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。


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