潮流を読む

コラム

「株式市場の上昇を中長期的に維持するためには」


 9月18日に日経平均株価の終値は、4万5303円となり、初の終値4万5千円台となった。TOPIXは9月16日に3168.36と史上最高値を更新した。日経平均株価が史上最高値を更新した同日に、日本銀行が発表した「2025年第2四半期の資金循環(速報)」によると、25年6月末時点での家計の金融資産残高合計は前年同期比1%増の2239兆円と過去最高を記録した。その内訳として、現金・預金は同▲0.1%のマイナスであったが、投資信託が同9.0%増の140兆円(構成比6.3%)、株式等が同4.9%増の294兆円(構成比13.1%)となった。背景には、冒頭のように株式相場が上昇して株式等の残高を押し上げたことと、新NISA(少額投資非課税制度)を通じた投資信託の資金流入が高水準で続いたことなどが挙げられる。
 この株式市場の上昇はどこまで続くのか。デフレ局面を脱して名目GDP(国内総生産)の成長が見込まれること、「貯蓄から投資へ」の流れが続くことなどにより、今後、多少の下落局面はあるものの、中長期的に株式市場の上昇は持続する可能性が高まっているといえよう。この点について、昨年度(24年度)、大和総研の中期予測モデルなど[注1]で23年度から10年後の33年度の家計金融資産残高のうち株式・出資金の残高とTOPIXの水準を予測した[注2]。まず、名目GDPは23年度の597兆円から、33年度まで年平均2.8%増加し、788兆円に成長すると予測している。これを前提に、TOPIXは23年度の2345から2.6倍の6113まで上昇するとしている。これにより家計金融資産のうち株式・出資金は23年度の262兆円から33年度には504兆円とほぼ倍増すると推計している。株式等が家計金融資産に占める割合は33年度には20%程度になると予測される。
 家計金融資産残高合計についても予測している。前述の通り、名目GDPの堅調な増加、株価指数の上昇や家計の貯蓄(黒字)の積み上がりなどにより、今後も拡大傾向が続き、35年度末(36年3月末)に3022兆円程度になると見込む。24年3月末時点の1.4倍程度(年率+2.7%)に相当する。また、家計金融資産残高の増加ペースは、過去20年(1.5倍、年率+2.1%)と過去30年(1.9倍、同+2.2%)の変化よりも一定程度加速する。これに伴い、1人当たり家計金融資産残高は、35年度末に2591万円程度になると見込まれる。試算値であり幅を持って見る必要があるものの、日本経済の持続的な成長を背景に、家計金融資産残高の拡大は今後も続くというのが基本シナリオとなる。ただし、前記の予測は、全てが順調にいくとの前提で、若干楽観的なシナリオとなっている。今後想定されるリスクシナリオとしては、日本経済が再びデフレに陥るケースや2000年代後半の世界金融危機のような事態が発生するケースなどが挙げられ、その場合、家計金融資産残高は24年度の試算結果から下振れすることになる。
 基本シナリオの通りであれば、今後10年間で政府が資産所得倍増プラン[注3]を実現できることとなる。しかし、これだけでは、家計の持続的な所得向上につなげていくことは難しい。株式・出資金の比率は、過去に金融危機などで株式相場が下落すれば、大幅に低下してきた。その株式市場では、国内企業の経常利益の変動が大きくなると、それに伴い市場の変動幅(ボラティリティ)が高くなる。このように株式相場が急激に変動することも考えられる中で、中長期的に資産所得を安定させるために、個人投資家には、自身の金融リテラシーの向上とともに、金融機関の提供するリスク管理を含む包括的な投資アドバイスが必要となる。これらを定着させる取り組みは、株式市場からの過度な資金の流出を防ぎ、株式市場の安定的な上昇につながっていくであろう。

(9月20日執筆)


[注1]大和総研の「日本経済中期予測」(2024年)、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)-令和6(2024)年推計-」と「日本の将来推計人口(令和5年推計)」をベースにしている。
[注2]内野逸勢、長内 智、森 駿介「日本のウェルスマネジメント市場のポテンシャルを探る~大和総研『日本経済中期予測』に基づく将来推計~『大和総研調査季報』2024年秋季号(Vol.56)」掲載。https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/it/20241024_030152.html
[注3]22年11月28日の新しい資本主義実現会議にて決定された。その中で、わが国の家計金融資産の半分以上を占める現預金を投資につなげることで、持続的な企業価値向上の恩恵が資産所得の拡大という形で家計にも及ぶ「成長と資産所得の好循環」を実現させることも盛り込まれている。

株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員
内野 逸勢

◇内野 逸勢/うちの・はやなり

 静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。「第3次袋井市総合計画」審議会委員。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。