「デジタル技術とリードユーザーでつくる新たな価値」
今回は、ユーザー中心を実現し、柔軟な対応力と迅速な意思決定という中小企業ならではの組織能力を生かして、誰もが使いやすい製品・サービスの企画開発を目指すPLAYWORKS株式会社を紹介します。同社では、従来製品・サービスでは使いづらさを感じている障がい者や高齢者などをリードユーザーと定義づけ、新たな価値を見つけ出す水先案内人として企画開発の中核を担ってもらっています。この手法はインクルーシブデザインといわれるものです。また、リードユーザー独自の新たな課題を解決する手段として、迅速な試作(プロトタイピング)と素早い試行錯誤(アジャイル)にデジタル技術を使うことで、短い製品開発サイクルの中、ユーザーの多様なニーズに対応できるようにしています。
例えば、日本マイクロソフトと共同開発した「WriteWith」は、聴覚障がい者と聞こえる人が顔を見ながら筆談できるアプリです。聴覚障がい者とのコミュニケーションは筆談が多いですが、文字だけでは表情などが読み取れず一方通行のやりとりになりがちでした。このアプリは、タブレットに内蔵されたカメラの画像からAIを活用して感情認識や文字認識を行い、聴覚障がい者と聞こえる人がより自然に、相互にやり取りができるようになるものです。
また、セイコーなど4社共同で「薄型ソーラービーコン内蔵点字ブロック」を開発しました。従来の点字ブロックでは、視覚障がい者にとって一方向の情報提供にとどまり、複雑な道順や障害物の多い環境では不安を感じることが多いという課題がありました。この製品は、点字ブロックに埋め込まれたビーコンから視覚障がい者のスマートフォンへ電波を発信し、イヤホンなどを通じて音声で道案内や施設案内を行えます。これにより現在地がいつも正確に把握できるようになり、道順を忘れてしまったり、駅や道路の工事による通行止めで経路が分からなくなったりしたときなどに役立つと、期待されています。
ほかにも、ぺんてると新しい画材開発を目的とし、絵を描くことがほとんどなかった視覚障がい者をリードユーザーとして、表現する喜びを実感できる商品を開発したり、牛乳石鹸と新規事業・製品開発を目的とし、触覚や嗅覚に優れているリードユーザーと共創型製品開発・評価を行ったりしました。「見えない」という視覚障がい自体の多様性を実感するための「ロービジョン体験キット」の開発などもしています。
企業がインクルーシブデザインに取り組むことで、全てのユーザーにとって優れた製品やサービスを提供することができます。PLAYWORKSの取り組みは、デジタル技術を活用して新しいユーザー体験を創造し、社会課題を解決する一方で、ビジネスとしての成功を追求しています。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史

◇大川 真史/おおかわ・まさし
ウイングアーク1stデータのじかん主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。専門はデジタル化による産業構造転換、中小企業のデジタル化。オウンドメディア『データのじかん』での調査研究・情報発信が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、エッジプラットフォームコンソーシアム理事、特許庁Ⅰ-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。i.lab、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。各地商工会議所・自治体

