ITを事例からひも解く「業界の変化を先取りし、デジタルと人の役割分担を明確に」

コラム


 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 事業分野は技術の進歩や市場環境によって縮小の方向に進む場合もあります。新しい事業への挑戦が求められますが、まったく土地勘がない分野よりも、これまで取引があったお客様や業界のニーズを汲み取り、新しいサービスや製品を開発するのも一つの方法です。福岡県北九州市のリョーワは、製造業の課題を解決するITサービスの開発に取り組んでいます。なぜ、思い切った挑戦ができたのでしょうか。IT経営マガジン「COMPASS」2022年夏号から転載します(記載内容は掲載時点のものです)。

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<会社概要>

株式会社けやき総合管理 山梨県甲府市国母5-9-19

設立:2008年 従業員数:正社員20人 パート10人

事業内容:賃貸、アパート・マンション管理業務、駐車場等管理業務、不動産仲介、住宅改修・リフォーム・リノベーションなど

URL:https://www.keyaki-s.com/

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 「3年計画のDX推進を一気に前倒ししました」

 山梨県甲府市を中心に不動産業を営む、けやき総合管理の谷隆仁社長は、当初の計画表を書き換え、精力的にデジタル化を進めている。

 同社は賃貸物件の仲介業(一般顧客対象)と賃貸物件管理業(物件オーナーが顧客)を主要事業とし、5店舗を構える。

 賃貸仲介業においては、デジタル改革関連法にともなう宅地建物取引業法の改正により、2022年から賃貸仲介における契約書や重要事項説明書等の電子化・押印廃止が認められ、大きな節目を迎えた。オンライン化で不動産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション デジタルを活用した革新、新しいサービスの開発等)を加速できるチャンスだ。

 けやき総合管理では、19年秋、ペーパーレスと業務効率化を目指し、賃貸物件仲介業務(募集、広告、契約、顧客管理など)をカバーするITツール「ESいい物件One」(いい生活社)を導入した。IT導入補助金にも採択されたという。 

 不動産業界においては、物件を借りる顧客側の情報収集はネットにシフトしてきたが、物件を決めた後にたくさんの書類に記入し押印するスタイルは変わらずであった。

 「マンパワーに頼っていたら、働き方も変わりません。ITシステムを使って工数を減らし、FAXや電話の利用もできるだけ抑えたいと考えました」

 谷社長は、これまでの業界の常識を時代に即して変えていこうと挑戦を始めた。

 不動産業界のITツールは様々に提供されており、比較した結果、拡張性があること、ITベンダーとのやり取りにおいて常に改良を重ねていく姿勢を感じたことから、このツールを選択したという。

 導入後は、問い合わせから成約まで顧客との接点を追いやすくなった。ネットからの問い合わせ情報を取り込み、また直接来店した顧客にはタブレットから情報を入力してもらうことで、顧客情報をデータ化する。内見記録などその後のやり取りを把握し、再来店の際にもきめ細かい接客を可能にした。また、これまで入居募集を開始した物件情報は複数のネット紹介サイトに手作業でアップしていたが、システムの機能を用いて、1度の操作で数社のサイトに情報を公開できるようになった。

 店内では物件情報をタブレットで提示し、紙を減らす工夫もしている。また、VR(Virtual Reality その場にいなくても空間の様子をデジタル表現する)を使った内見サービスなども提供中だ。

 こうした取り組みの結果、物件情報サイトへの物件公開作業時間が3割短縮、残業時間の削減など効率化を図ることができた。

 IT活用により捻出した時間で、日々の業務はどのように変わっていくのだろうか。

 「賃貸仲介事業に関しては、より豊かな情報を発信したり、ホームステージングなど住み方の提案をしたり、動き方が変わるでしょう。賃貸物件管理事業では、人脈を広げ物件オーナーのことをよく理解し、提案する力が勝負になります。お客様が求めるものに沿ってマインドを変えられるかどうか。会社の新しいスキーム作りを急ピッチで進めつつ、人材育成にも力を注いでいきます」

 谷社長は、今後の不動産賃貸事業の在り方についてこう締めくくった。

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【事例からヨミトル】

・業界の常識は変わっていくことを前提に変革を進めていきましょう。

・業種に特化したITツールは、業界ならではの効率化を実現できます。

・IT活用で効率化した時間を付加価値の高い業務に投下していきましょう。

                                               

IT経営マガジン「COMPASS」編集長  石原 由美子

 アップコンパス代表。教材編集や講師業を経て、情報処理技術者試験の書籍編集、モバイル分野の雑誌編集を担当した後、IT経営マガジン「COMPASS」https://www.compass-it.jp/の編集に携わる。中小企業支援機関・支援者と連携しながら、中小企業が主体となる等身大のIT活用をテーマに、全国の事例を取材し、その本質を伝えている。各地の商工会議所においても、IT活用事例・DX入門等のセミナーを担当。