10月からインボイス制度が始まりました。大きな混乱はなく静かなスタートになりましたが、影響が出てくるのはこれからです。
インボイス制度とは、消費税の適格請求書保存方式のことです。簡単にまとめると、買い手側は支払った消費税額の証明にインボイス登録番号が記載された領収書など(インボイス)が必要となり、売り手側は課税事業者でなければインボイスを発行することができないという制度です。
実施直前になってインボイス制度が話題になりましたが、制度を導入することが決まったのは2015年12月の税制改正大綱の閣議決定であり、8年ほど前のことです。消費税率の10%への引き上げも決まったため、多くの国民に対して直接の影響が大きい消費税率アップに注目が集まり、インボイス制度はその当時ほとんど報道されませんでした。
インボイス制度では、免税事業者が大きな影響を受けるため、課税事業者への転換がポイントになります。免税制度は、特に個人事業主や小規模事業者にとってメリットが大きい制度で、事務負担や税務コストへの配慮によってつくられています。ただ、取引先との関係から、今後は自ら課税事業者への転換を選択せざるを得ない状況にもなっており、法律を維持しながら免税制度が形骸化するように見えます。
課税事業者にも影響はあります。これまでは物を買うときや仕事を依頼する際は、相手が消費税を納めているのか納めていないのか、知る必要はありませんでした。今後は原則、買い手の課税事業者は、相手先が課税事業者か免税事業者かを登録番号から確認し、区別する手間が生じるようになります。取引先が免税事業者である可能性もあり、個人事業主との取引が多い事業者は、契約内容など調整も行う必要があります。
一方、インボイス制度をチャンスと捉え、免税事業者に対してもこれまでと変わらない取引を行う事業者が出てきています。なぜなら、税のコスト増加よりも問題となる、今後の人手不足に備えて優秀な人材確保を優先するためです。これも、経営判断の一つの要素になります。
コロナ禍による社会の変化もあり、仕事の多様化と副業の推進による経済効果がより期待される時代になりました。ただ、インボイスで負担が大きくなることにより副業に二の足を踏むことも懸念されます。インボイス制度は、税務だけでなく、経済や労働など社会生活にも影響が出てきます。後に振り返ってみれば、社会の大きな転換点になっているかもしれません。
気象予報士兼税理士 藤富 郷

気象予報士、税理士。埼玉県三郷市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。大学院在学中に気象予報士に登録。日本テレビ「スッキリ」に気象キャスターとして出演しながら税理士試験に合格し、2016年に開業。21年に越谷税務署長表彰受賞。趣味の鉄道では、鉄道イベント出演や時刻表、鉄道模型雑誌にコラムを寄稿。プログラミングやダムにも造詣が深く、“複業”として得意を組み合わせて幅広く活躍中。地元の「三郷市PR大使」を務めるなど、地域との関わりも深めている。

