「DX×哲学×アートが育む多脳工の新たなものづくり」
株式会社フジタは、富山県高岡市に拠点を構える町工場で、アルミ削り出し加工やアルミ鋳造金型設計・製作を手掛けています。
代表取締役社長の梶川貴子さんは、幼少期から工場が身近な環境で育ちましたが、当初は家業を継ぐつもりはなく、アパレルの専門学校に進学し、卒業後は金沢のアパレルメーカーに就職しました。しかしその後、実家に戻り、自分の居場所づくりのため、家業のデジタル化に取り組むようになりました。
1987年にPC-9801というパソコンを購入し、給与計算システムを自作しました。これをきっかけに業務の効率化が進み、その後は生産管理のデジタル化や社内コミュニケーションの円滑化へと発展しました。さらに近年では動画やSNSを活用した情報発信にも力を入れ、町工場の技術力や魅力を広く伝えることで、新たなビジネス機会を生み出すことに成功しました。
同社のもう一つの大きな特徴は、アートや哲学を取り入れた経営です。クラウドファンディングを活用して資金を集め、第2工場の敷地内に2017年、「Factory Art Museum TOYAMA」を設立しました。金属加工技術を生かしたメタルアート作品を展示する美術館です。
また、美術館の2階にはワークショップスペースが設けられ、毎月「哲学カフェ」が開催されています。ここでは、ものづくりや経営、人生観について自由に意見を交換しながら、新たな考え方や発想が生み出されています。13年から年に1回、全従業員が参加する戦略会議を開催しており、同日に社内限定の哲学カフェも実施しています。「お金とは何か?」「共通善とは何か?」「顧客の創造とは何か?」といったテーマについて半日かけて議論することで、従業員の仕事への向き合い方にも変化が生まれています。
フジタの取り組みは、町工場の経営にデジタル技術とアートや哲学を組み込むことで、新たな可能性を切り開いている好例です。デジタル化による業務効率化と情報発信に加え、アートや哲学を取り入れることで、自律的な現場人材の育成にもつながっています。単能工から多能工、さらに”多脳工”へと進化し、ものづくりエンジニア集団へと成長しています。これらの取り組みは、ものづくりの新たな形を模索するほかの町工場や企業にとって、大きな示唆を与えるものとなっています。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史

◇大川 真史/おおかわ・まさし
ウイングアーク1st データのじかん 主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。デジタル化による産業構造転換や中小企業のデジタル化に関する情報発信・事例調査が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。経団連、経済同友会、経産省、日本商工会議所、各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。

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