トレンド通信「お店やお客の観察はこんなに面白い」

コラム

 「たかだか数万円の出費で、何百万円もかけた商品開発の失敗を防げるのですから、安いものです」。先日聴いたセミナーで、日本百貨店のバイヤー日暮学さんがこう指摘していました。数万円の出費とは、地方の事業者さんが、東京に来て、さまざまなお店を視察する際にかかる費用のことです。日暮さんは、全国各地の食品や雑貨を、東京を中心とした店舗で販売するセレクトショップのバイヤーです。地方でものづくりをしているなら、まず東京へ来て、その商品が想定する売り場を実際に見て研究してほしいというのです。

 店舗を観察することで、自分がつくろうとしている商品は、どういったタイプのお店で好まれるのか、店頭でどのように陳列・展示されているのか。競争相手や競合状況はどうなのか。価格帯や差別化の争点とその付加価値がどの程度販売価格に反映されているのか。その売り場に来るお客さんは、どのような人でどのような買い方をしているのか。あらかじめ視点を決めて集中して臨めば、1日に10店舗くらいは回れます。

 前述したのは商品開発の視点ですが、小売業視点や広告業などのマーケティング視点、またお店を設計・運営する視点もあります。私もかつてパソコン市場の立ち上がり期に、記者として初めてその分野の取材を担当した時、秋葉原のさまざまなタイプのお店の売り場を毎日毎日観察しました。まずはその業界のことを知るため、お店による品ぞろえの違いや価格設定、人員の派遣の様子など。さらには店ごとに違うお客さんのタイプ、店員との会話や質問の様子を観察していました。

 そのうち、いくつかの店のスタッフとも顔見知りになり、あまり表に出ないさまざまな情報も得られるようになりました。今でもとても役に立ったと思うのは、商品の魅力と価格、新商品登場のタイミングでお客さんの顔つきが違ってくることや、商品ラインアップと価格設定の関係などに関する理論や実践的な裏付けを学んだことです。

 実は、お店の中だけでなく、駅や空港、大きな交差点のような空間も、広告のサイネージなど、ある種のビジネスにとってはそこが売り場になっています。また、例えばスマホのアプリのように、ある種のサービスや商品にとってはそこが、まさに消費の現場であることもあります。行き交う人々が、さまざまな形で提供される商品やサービスに対して、どのような関心を示し、どのように反応し行動しているのか、観察するのはとても面白いことです。問題意識を持った視点さえあれば、こうした現場はさまざまなマーケットデータを提供してくれる情報の宝庫です。

 その昔、テレビでヒット番組を連発していた頃のテレビプロデューサー、テリー伊藤さんと一緒に仕事をした時、ヒットを生む秘訣(ひけつ)を聞いたところ、「君は女子高生の生活に興味あるか?」「あまり、ありません」「だからダメなんだよ。他人の人生に興味を持たないヤツにヒット商品なんかつくれないよ」と言われたのを今も思い出します。

日経BP総合研究所 上席研究員 渡辺 和博
◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ

日経BP総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。