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コラム

「トランプ2.0が生み出す不確実性への対応」


 2025年1月に国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し[注1](サブタイトルは「世界成長:まちまち、かつ不確実」)が公表された。前回の24年10月の同見通しから変化はなく、25年と26年の世界経済の成長率は3.3%と予測されている。各国、地域別に見ると、米国の経済成長率の見通しは25年0.5ポイント、26年0.1ポイントの上方に改定されたが、ユーロ圏では同▲0.2ポイント、同▲0.1ポイントの下方に改定された。米国のプラスの改定がユーロ圏などのマイナスの改定を相殺した形となっている。
 IMFは、同時に今回の見通しにおいて中期的には「世界経済の成長率は2025~2026年の平均を下回り、5年先の予測が約3%」として経済成長の下振れリスクを指摘し、その程度は「国によって異なる」としている。そのリスクとは、第2次トランプ政権(いわゆるトランプ2.0)における関税政策[注2]の保護主義的色合いが、これまで以上に強まることに起因するサプライチェーンの混乱である。トランプ2.0においては、バイデン政権からの政策変更(実現見込み)による”荒波”の復活が見込まれるだろう。IMFが24年4月に指摘した23年までの”荒波”として、(1)世界的なCOVID-19パンデミックの影響によるサプライチェーンの混乱(2)ウクライナでの戦争による世界的なエネルギー・食料危機(3)インフレ率の急上昇、それに続き世界各国で同時進行した金融引き締め――の3点があった。
 25年以降に考えられる”荒波”は、トランプ2.0で想定される(1)保護主義的な関税政策によるグローバル・サプライチェーンの混乱(2)国際協調から一国主義への政策転換により、投資家の脱炭素を巡る思惑の相違がもたらす原油市場のボラティリティの高まり(3)金融政策における緩和姿勢への転換の中断に伴う想定外の米国の中長期金利高止まり――となる。見込まれる影響として、(1)では、米国が対中国の追加関税率を引き上げた場合、日本を含む二国間交渉が困難な状況となり、追加関税の対象国が拡大する可能性がある。さらに、中国の景気減速に伴う世界的なサプライチェーン再編の影響が重なり、大きく経済が落ち込む恐れがある。(2)では、原油価格のボラティリティが高まり世界経済へマイナスに影響する可能性がある。(3)では、減税政策(例えば、所得減税恒久化と法人税の引き下げ)や規制緩和政策などはインフレを促進する要素を含む政策であるため、日本を含むアジア各国との金利差が開き、それらの国の国内金利上昇の圧力が高まることで、これらの国の通貨に対するドル高の長期化が予想され、外貨準備が少ない国などで通貨・債務危機につながるリスクが考えられる。
 一方で、トランプ2.0が復活させる”荒波”の根底には、中長期的に醸成されてきた米国民の「民意の変化」に基づく中長期的な「政策の潮流」がある。例えば、中国の台頭などによる自由貿易から保護貿易重視の政策支援、あるいはグローバリゼーション化での自国の製造業の衰退による国際協調主義から一国主義重視の政策支援という民意の変化である。同時に、それぞれの主義(イデオロギー)の対立が表面化し、支持する政策の左・右傾化による分断がもたらす「政策の不確実性」もある。これらが世界経済を不確実にさせる根本的な要因としてあり、それらの解決には当然ながら時間がかかる。IMFの同見通しにおいても「ベースラインシナリオの中期的なリスク(筆者注:経済成長の見通しを意味する)は下方に傾いている」としており、前記の認識からの記述と考えられる。
 これらを踏まえると、トランプ2.0における政策変更への短期的な金融・経済政策の対応だけではなく、自国経済・産業の構造改革の推進、リベラルな国際秩序を維持するべくWTOなどの多国間ルールのための国際機関の機能強化を通じ、中期的な成長見通しを引き上げることが必要となろう。例えば、多国間ルールでは、トランプ政権下で取られ得る通商政策のうち、ビジネスに好ましい効果が期待されるものもある。その一つが、バイデン政権が回避していた自由貿易協定(FTA)交渉の再開と考えられる。IMFの同見通しでは、「各国の次期政権が既存の貿易協定を再交渉し、新たな取り決めを成立させることができれば、世界経済活動が活性化する可能性がある」としている。多国間のFTAを先導してきた日本が強みを発揮できる分野といえる。トランプ2.0が生み出す不確実性に対する日本あるいは日本企業のレジリエンスを高めるための取り組みは、さまざまな視点から検討し、短期的な不確実性に左右されず、中長期的に着実に取り組んでいく必要もあろう。

(2月20日執筆)

[注1]「IMF世界経済見通し」2025年1月https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2025/01/17/world-economic-outlook-update-january-2025
[注2]ベースライン関税とトランプ互恵通商法案が該当する。前者は全ての輸入品に対して一律の関税措置であり、後者は米国へ輸出する国が課している関税率と同率を米国輸入時にも適用する関税措置である。その他に中国に対する追加関税率の60%への引き上げや、メキシコに対する自動車の関税率の大幅な引き上げなども含まれる。

株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員
内野 逸勢

◇内野 逸勢/うちの・はやなり

静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。