トレンド通信

コラム

「新たな目的地と居場所をつくったFビレッジ」


 いまや北海道の新名所となっている北海道ボールパークFビレッジを訪ねてきました。プロ野球の北海道日本ハムファイターズが本拠地とする野球場エスコンフィールドを核に、さまざまな商業施設や宿泊施設、居住施設などが複合しています。2023年3月に開業し、今年の6月には来場者が500万人を超えました。新たな観光名所であり、地元民が休日を過ごす居場所であり、そこに住むこともできます。また、さまざまな企業がこの開発プロジェクトに関与することで、ビジネスや出会いを生み出す場所としても期待されています。
 訪ねた日は、オリックス・バファローズとのデーゲームが開催されていました。球場に足を運んでいた人たちは年齢も性別も服装も多種多様で、例えば広島のマツダスタジアムの観客のように、みんなが応援するチームのユニホームを着ているといったことはなく、試合観戦、あるいは応援がメインというより、普通に休日を楽しみに来たその一部として野球観戦という人もたくさんいるように感じました。
 Fビレッジの開発を手掛けたキーパーソン、北海道日本ハムファイターズの前沢賢さんは、「訪れるお客さんは、運営側が想像もしないような楽しみ方をこの場所で見つけている」と話していました。例えば、試合前にグラウンド整備のために芝に水をまくシーンをずっと眺めている人がいて、理由を尋ねると「非日常空間で緑と水が描く光景に癒やされるから」だそうです。平日の昼間、試合がない日でも球場に入れるよう一部を開放しているのもユニークです。アクティブなシニア層を意識して、プロ野球では異例の平日の昼間に試合を開催したこともあります。バックスクリーンにはビール会社とコラボしたレストランがあり、そこで醸造したビールを野球観戦しながら楽しめます。
 球場以外でもFビレッジでは、さまざまなお客さんに向けた楽しみ方が提案されています。ファミリー向けに子どもが遊ぶスペースはもちろん、犬の散歩がてら来られるようにドッグランのコースもあります。球場にも、ペットとともに観戦できるスペースが設けられています。
 とにかく、これまで野球チームや野球観戦にあまり興味がなく、接点を持たなかった人にも足を運んでもらうアイデアや工夫が随所に散りばめられています。一つひとつの仕掛けを見ていると、年齢やライフスタイルの違いでいくつもターゲットを設定し、それぞれに対して魅力的な企画やサービスを提供しているように見えます。顧客を広げるために、なんとなくぼんやりと広いターゲットを設定するのではなく、絞った満足度の高いものを個々のターゲットに合わせていくつも用意するというイメージです。
 ターゲットが違っていても共通しているのは、単にある目的だけのために来てそれが済めば帰るのではなく、ほかの施設やサービスを体験してできるだけ長い時間Fビレッジに滞在してもらおうという考え方です。顧客を広げるために、たくさんのフックを用意してそれをいくつも体験できる場所をつくったことが、成功の秘訣(ひけつ)の一つだと思います。く使って「慣れる」ことが重要だと思います。手始めにランチのお店でも聞いてみてはいかがでしょう。


 

日経BP 総合研究所 上席研究員

渡辺 和博

 

◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ

 日経BP 総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。