「設備稼働100%で現場と経営を同期させたスマート工場」
今回は、IoTで工場の見える化を進めた製造業の事例です。愛知県碧南市にある日進工業株式会社は、自動車内装向け樹脂部品を射出成形で生産する企業です。長田和徳氏が社長に就任した2005年から本格的な情報システム化に着手し、15年の新工場稼働を機にスマート工場化を加速させ、現場の判断と経営の可視性を同時に高める仕組みづくりに踏み出しました。
はじめに成形機からショット信号などの稼働データを自動収集し、機械ごとの稼働・休止・段取り・修理の状態と所要時間を色分けで表示する基盤を構築しました。大型モニターとスマホで稼働率や停止理由を即時に共有し、見落とされがちな短時間停止(チョコ停)も継続的に記録。データを起点に段取り、金型、資材、メンテナンスの改善が日常化し、無駄な停止の圧縮が進みました。導入初期に想定以下だった稼働率は55%から90%へと大きく向上しました。
生産管理もルールを刷新しました。省力化・省人化や時間当たりの生産量向上などではなく「設備稼働100%」を最重要指標に据え、仕事のやり方、ノウハウ共有、評価、給与までをデータ起点で再構成しました。タイムカードや生産実績と連携し、個人と班の達成率、1個当たり時間、計画進捗(しんちょく)を見える化しました。人員配置はデータに基づきリアルタイムに最適化し、人手が必要な工程には応援を回し、順調な工程には早上がりで残業を抑制。残業代削減の成果はボーナスで還元し、納得感が提案力の向上につながりました。
成果の蓄積に合わせ、画面設計や用語を誰にでも読みやすく統一し、国内外拠点や協力工場と同じ指標で会話できる体制へ拡張しました。短時間停止の主要因だった段取りや準備の不具合が減り、標準作業時間の明確化と予防保全の優先順位付けが進んだことで、工程間のバラつきが減少しました。教育面では社内研修や、国家資格「ITパスポート」取得の支援を継続し、データを読み解ける人材層を厚くしています。
現在は、サンプルラインの公開や工場見学の受け入れに加えて、自社で開発したシステムやユニットの外販も開始しています。短期の費用対効果にとらわれず、投資を循環させて現場力を底上げする方針を掲げています。まず自社で結果を出し、その知見を地域へ還元する同社の歩みは、中小企業が無理なくDXを進めるための現実解として大いに参考になります。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史
◇大川 真史/おおかわ・まさし
ウイングアーク1st データのじかん 主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。デジタル化による産業構造転換や中小企業のデジタル化に関する情報発信・事例調査が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。経団連、経済同友会、経産省、日本商工会議所、各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。


-120x68.jpg)