中小企業のためのDX事例

コラム

「トップの決断と現場の工夫が支えたデータドリブン経営」


 今回は「どんぶり経営」から「データドリブン経営」へと切り替わった製造業の事例です。新潟県にあるセキ技研株式会社は、1991年創業の製造業企業で、生産工程の自動化を図るFA(ファクトリーオートメーション)装置の設計・製造や電子部品の受託生産を手掛けています。従業員約100人のこの企業が注目される背景には、アナログで感覚頼りだったスタイルから、数値とデータに基づく経営へわずか3年で変化した点があります。
 DX推進の起点は、二代目経営者の問題意識でした。属人的な判断や非効率な業務体制が温存され、収益や生産性に関するデータは一部の経営層しか把握していない状況。現場では「とにかく忙しくすればよい」といった空気がまん延していたといいます。
 そうした状況を打破すべく、2021年にDX推進室を立ち上げ、戦略的なデジタル化が始まりました。これは「人口減少社会におけるモノづくりを再興する」という中期経営計画に基づくもので、DXを単なる業務改善の手段にとどめず、企業文化として根付かせることを目指しています。業績報告会の開催や部門別データの見える化、業績に基づく振り返り文化の醸成が進められ、全社的な業務の再設計が行われました。これにより、年間1700時間の業務時間削減などの成果が表れています。
 現場には、アルバイトで入社し、独学でシステム改善に長年取り組むメンバーがいました。手作業による現品票発行や出荷履歴管理を地道に電子化した取り組みが、後の全社DXの土台となりました。また、新たに加わった技術担当者は、身近な「お弁当発注システム」の開発から着手。社員が昼食用の弁当を頼む際に使用し、注文時に効果音を鳴らすなどの工夫により現場にも自然に受け入れられ、DXへの心理的ハードルを下げました。
 こうした取り組みのポイントは、トップダウンの明確な方針と、現場からの改善提案というボトムアップの動きが両輪となって進められたことにあります。さらに現在では、得られた知見は社外にも展開されつつあり、地域企業への支援にもつながり始めています。
 この事例は、地方の中小製造業でも、経営者の覚悟と現場の創意工夫があれば、本質的かつ持続可能なDXが実現できることを力強く示しています。今ある課題に対して、小さくとも確かな一歩を踏み出すこと。それこそが、大きな変革への最短ルートなのかもしれません。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)

ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史

◇大川 真史/おおかわ・まさし

 ウイングアーク1st データのじかん 主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。デジタル化による産業構造転換や中小企業のデジタル化に関する情報発信・事例調査が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。経団連、経済同友会、経産省、日本商工会議所、各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。