「HACCPとIoTで深化する養豚のデータ活用」
今回は、IoTと現場アプリで生産管理を刷新した養豚業の事例です。「まるみ豚(とん)」で知られる宮崎県児湯(こゆ)郡川南町にある有限会社協同ファームは、2010年に県内で猛威をふるった口蹄疫(こうていえき)により全頭殺処分を余儀なくされる大打撃を受けました。この苦い経験から、衛生管理とデータ活用を柱に据えた「データで裏付ける経営」へかじを切りました。
豚舎にセンサーを設置し、水や餌の供給量、温湿度、二酸化炭素、浄化設備の稼働までをクラウドで可視化しています。異常値が出れば担当者の端末に通知が届くので、給餌や換気の調整、設備トラブルの早期発見につながります。日常点検の頻度を変えずに対応スピードを高める仕組みです。さらに副次的な効果として、季節ごとの活動時間帯や給水のタイミング・量といった豚の生態も、通年でリアルタイムに把握できるようになりました。これを基に飼育側の打ち手を具体化し、新たなアイデアの実践にもつなげています。
併せて、国際基準であるHACCP(ハサップ)の考え方に基づく衛生管理体制を整え、農場HACCP認証の取得と運用を通じて工程ごとの重要管理点を明確化しました。点検記録や手順の標準化が進み、属人的だった作業は「誰がやっても同じ品質」に近づき、教育や引き継ぎの負担も軽くなりました。
管理システム面では、紙の飼育日誌や事務所でのExcel転記に依存していたプロセスを、現場入力のモバイルアプリへ置き換えました。餌の消費量や在庫、豚の数をその場で登録できるため、移動時間と転記ミスが減少。情報がリアルタイムで共有され、問題の把握から是正までのサイクルが短縮されています。
日次で集約されたデータにより、豚舎ごとに豚の体重増加量や飼料効率、設備稼働のボトルネックが可視化され、予防保全の立案や人員配置の最適化にも踏み込めています。紙のデジタル化からセンサー拡張への段階的な導入が、業務移行と定着の鍵となりました。こうして積み上げた日々の可視化と改善が、まるみ豚の信頼を支える基盤になりました。現場で集められる最小単位のデータから始め、意味のある指標に絞って運用を回し続けることが、無理なく成果を生むDXの定石といえます。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史
◇大川 真史/おおかわ・まさし
ウイングアーク1st データのじかん 主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。デジタル化による産業構造転換や中小企業のデジタル化に関する情報発信・事例調査が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。経団連、経済同友会、経産省、日本商工会議所、各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。


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