世界銀行は、1月の「世界経済見通し」において、「世界経済の成長率は2024年末までに、5年間のGDP成長率が過去30年で最低の水準になる」とした[注1]。「2023年の2.6%から2024年は2.4%と3年連続で鈍化し、2010年代の平均をほぼ0.75%ポイント下回る」との見通しを示している。他方、1年前より唯一好転しているポイントとして「主に好調な米国経済により世界同時不況のリスクが後退した点」を挙げている。それ以外の経済指標には「地政学的緊張の高まり」が影を落としてきているとした。特に、世界銀行は「大半の主要国における成長鈍化」とともに、「世界貿易の低迷」を挙げており、「2024年の世界貿易の成長率は、コロナ前の10年間の平均と比べ、その半分にとどまる」との見通しを示している。
この点について、23年10月に世界貿易機関(WTO)[注2]は、23年の世界の商品貿易額の伸び率(貿易成長率)の見通しを、前回(同年4月)の1.7%の半分以下の0.8%に下方修正した。その一方、24年の前回見通し(3.2%)に対し、今回は3.3%と下方修正こそしていないが、同時にグローバル・サプライチェーンの分断化の兆候が見られるとし、世界貿易の構造的な変化に対する懸念を示している。その根拠として、例えば、世界貿易に占める中間財の割合というグローバル・サプライチェーンの活動量を示す指標の過去3年間の平均51.0%が、23年上半期には48.5%に低下したことを指摘している。24年世界経済の成長率は、過去の景気循環のセオリー(インフレが落ち着き、金利が低下し始めると貿易成長率が安定すること)通りであれば、23年対比で貿易成長率の伸びが回復することで鈍化は懸念されるものの、緩やかに上昇する見通しである。
貿易成長率の回復が想定通りとならないリスクとしては、グローバル・サプライチェーンの分断による保護主義(自国産業の保護などを目的に、自由貿易に反対し、関税や輸入制限などの保護貿易政策を採用する主義)の台頭が考えられる。さらにその先にある、広範な脱グローバリゼーションの実現という大国の孤立主義(他国との同盟関係や国際組織への加入を避け、独立した外交政策を維持する主義)への転換の可能性という大きなリスクも考慮していく必要があろう。24年は世界的な「選挙イヤー」と呼ばれている。中でも、11月に予定されている米国の大統領選挙と下院選挙、6月の欧州議会選挙などの結果による保護主義の台頭の懸念などを踏まえて、世界の貿易成長率を見通しておく必要があるだろう。
WTOのンゴジ・オコンジョ・イウェアラ事務局長は「世界経済の分断はこれらの課題(貿易の減速は、世界中の人々の生活水準に悪影響)を悪化させるだけであり、WTO加盟国は、保護主義を回避し、より強靭(きょうじん)で包摂的な世界経済を育成することにより、グローバルな貿易の枠組みを強化する機会を捉えなければならない」と強調している。紛争解決能力の再構築などに取り組みながらWTOの枠組みを維持し、グローバル規制下でのグローバル貿易の自由主義を守っていくことが必要である。しかし、その基盤となる国際協調を重んじる規範の共有が難しくなっている。この部分において、保護主義、孤立主義を強める国々の大幅な民意の軌道修正がなされない限り、20年代は世界貿易成長による世界経済の成長の機会を生かせなかった10年として語り継がれることになるかもしれない。
(2月20日執筆)
[注1]世界銀行「世界経済、過去30年で最低の水準へ」2024 年1月9日

[注2]世界貿易機関「世界貿易の見通しと統計 - 更新:2023年10月」2023年10月5日 https://www.wto.org/english/res_e/booksp_e/gtos_updt_oct23_e.pdf
株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員 内野 逸

静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。
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