「試行錯誤と改善で進化した農家自作の選別AI」
今回は、試行錯誤の末に現場で使えるAIツールを完成させた、キュウリ農家の事例です。静岡県湖西市で家族経営をする小池さんは、出荷前のキュウリの等級判別作業に長年課題を感じていました。この選別作業は、熟練した母親にしかできず、多い日には1日8時間もかかっていました。経験と勘に頼る属人的な作業であり、将来的な継続も不安視されていたのです。そこで小池さんは、画像AIを活用した等級判別ツールの自作に挑みました。
最初の試作機「初号機」は、安価なWebカメラと小型コンピューター「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」を用い、もともと持っていたパソコンで無料のAI開発ソフトを使って、わずか1週間、3000円という低コストで完成。2500枚の画像を学習させた結果、約80%の正解率を達成し、「これはいける」と手応えを感じました。
ただ、実際の作業現場では、キュウリをさまざまな角度から確認するため、1方向の画像では不十分。そこで「2号機」ではカメラを3台に増設し、一定の明るさの下、ベルトコンベアでキュウリを流しながら、上面・側面・裏面を同時に撮影する方式にしました。この改良により、正解率は90%を超え、「現場投入可能」と期待されました。
しかし、実際に導入してみると、母親から「おもちゃみたいだ」と厳しい評価を受けました。判定に時間がかかりすぎて選別作業のテンポが崩れ、ベルトコンベアで転がすことでキュウリのイボが取れて、新鮮さの評価も下がってしまいました。
この経験を踏まえ、小池さんは開発の方向性を大きく転換しました。当初はロボットアームによる完全自動化を目指していましたが、それを断念。代わりに、画像判定だけを素早く行い、母親でなくても精度高く仕分けできる補助ツールとしての「3号機」を開発しました。
3号機では、カメラを1台に減らし、画像の解像度を落とすことで処理速度を大幅に改善。正解率は79%に下がりましたが、判定は瞬時に完了するようになりました。この試作に対し、母親から「これなら現場で使ってもいい」と合格点を得て、ついに実用化に至ったのです。
この事例が示しているのは、デジタルツール開発において「現場の声」と「試行錯誤」がいかに重要であるかという点です。高性能であることよりも、使いやすく、現場に適合していることが求められます。中小企業がDXに取り組む際には、このような柔軟で地に足の着いた開発姿勢が成功への鍵になるのです。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史
◇大川 真史/おおかわ・まさし

ウイングアーク1st データのじかん 主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。デジタル化による産業構造転換や中小企業のデジタル化に関する情報発信・事例調査が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。経団連、経済同友会、経産省、日本商工会議所、各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。

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