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コラム

「最高益の銀行決算に死角はないか」

日本の5大銀行グループ(以下大手銀行)と上場地域銀行73行・グループ(以下地域銀行)の2025年3月期の決算が5月15日に出そろった[注1]。あくまでも速報ベースではあるが、大手銀行では「合計の連結純利益は前の期比30%増の4兆3973億円となり、2年連続で最高益を更新」し、地域銀行では「連結純利益の合計は前の期比29%増の1兆2519億円となり、9期ぶりに過去最高」であった。その理由は、前者が「国内の金利上昇で貸出金利ざやが拡大し、政策保有株式の売却益が業績を押し上げた」とし、後者が「貸出金利の引き上げが寄与」としている。大手銀行と地域銀行とも、貸出金利の上昇が最高益更新の主な要因である。
 ただし、大手銀行と地域銀行のそれぞれの貸出残高に主に採用されている貸出金利の基準金利が異なることには、留意が必要である。大手銀行の貸出金利はTIBOR(タイボー)と呼ばれる市場金利(日本のインターバンク市場(銀行間の市場)の金利を示す円の金利指標)を基準金利として採用している場合が多く、市場金利が上昇すれば貸出金利に反映される。一方、地域銀行の大部分の貸出金利の基準は短期プライムレート(金融機関が企業向けに提供する1年未満の短期融資に適用される基準金利)であり、日本銀行の政策金利に連動している。前者は、市場で決まる金利であるため、後者より当然ながら市場金利上昇が貸出金利に反映されるスピードが速い。このような背景があることから、大手銀行は2期連続、地域銀行は25年3月期決算での最高益となった。
 最高益となった銀行決算に死角はないだろうか。まず、米国の相互関税による国内企業の業績へのマイナスの影響である。業績が悪化すれば、企業が期日通り債務の返済ができなくなる、あるいは最悪の場合には倒産するリスクが高まることが想定される。銀行は、その場合の損失を見込んで準備する資金である貸倒引当金が増加することでコスト増となり、減益要因となる。次に、金利が上昇すれば、銀行間での貸し出し競争が激しくなる。このため貸出残高あるいは貸出先の顧客基盤を維持するために、健全性が高い大手銀行、大手地域銀行はほかの中堅・中小地域銀行よりも貸出金利を戦略的に低下させる。このため、中堅・中小地域銀行は思い通りに金利を上げることができなくなる、あるいは顧客を一部失うことが想定され、収益悪化になる。ここまでは貸し出しという銀行の資金運用の部分の課題である。
 一方、預金という銀行の資金調達の部分で課題も多い。市場金利が上昇すれば、預金金利も追随して上げる必要が出てくる。つまり、貸し出しなどの資金運用の原資となる預金という資金調達コストが上昇する。加えて、預金者は金利が高い預金を選択するようになり、金利引き上げ競争が激化する。このため、十分に金利が上げられない銀行からは、預金が流出する可能性が高まる。他方、地方圏の地域銀行は、特に相続によって域外に預金が流出する可能性がある。さらに都市圏の地域銀行でさえ、ネット銀行の台頭がこの預金流出の流れを促進することも懸念される。大手銀行も、うかうかしていられない。オンラインという利便性を考えると、ネット銀行に預金が流出する可能性がある。例えば、25年5月15日に公表された、三井住友カードがソフトバンクとの包括提携の下でPayPayと連携することは、その懸念に対応する戦略の代表事例といえるだろう。
 今後の銀行業界の勢力図を占う最大の焦点は、ロイヤリティーが高い、つまり”粘着性のある”預金者の獲得において、ネット銀行を含めて、どの銀行が強みを発揮するのか、である。コストが低く、利便性の高いオンラインのみではそれが生まれないことも考えられる。本質的には、預金者の情報を活用しながら、決済、資産形成などさまざまなサービスを提供し、預金者=顧客の囲い込みが重要であろう。とすれば、預金残高、預金口座の規模が重要ではなく、預金者にひもづく顧客データの多さが重要であり、それらを、生成AIなどを活用して顧客基盤の強化に生かせるような戦略が不可欠となるだろう。その点を間違えると、大手銀行でさえ、盤石とはいえないであろう。銀行の決算よりも本当の死角はそこにあるのではないか。

(5月20日執筆)

[注1]5月16日 日本経済新聞(朝刊)1面「5大銀、2期連続で最高益 前期4兆円超 金利上昇が押し上げ」、同9面「地銀、最高益の更新見通す 今期最終 前期29%増に続き 米関税影響、製造業集積地は慎重」。5大銀行グループは、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友トラストグループ、りそなホールディングス。

株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員
内野 逸勢

◇内野 逸勢/うちの・はやなり

 静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。「第3次袋井市総合計画」審議会委員。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。