「顔の見えるつながりが生む鋳造業DXの潮流」
今回は、業界団体が主導してデジタル化を推進した日本鋳造協会の事例を紹介します。鋳造業の業界団体である同協会は、2017年に「鋳造産業ビジョン2017」を策定し、デジタル技術を活用したスマートファウンドリー(Smart Foundry)の実現を目標に掲げました。この目標を具体化するために設立されたのが、IoT推進特別委員会です。
IoT推進特別委員会は、鋳造各社がIoTなどのデジタル技術を導入し、生産性向上や品質改善を実現することを目指して活動を行っています。その一環として18年にスタートしたのが「鋳造IoTLT(Lightning Talks:ライトニングトーク)」です。このイベントは、技術者向け勉強会「IoTLT」から派生したもので、同協会主催として半年から1年に1回の頻度で開催されています。第3回以降はYouTubeで公開されており、現在も誰でも見ることができます。
鋳造IoTLTでは、毎回10社前後の鋳造メーカー従業員が登壇し、自分の現場でやってみた実践的な取り組みを5分で発表しています。例えば、製造工程で使用する砂の乾燥状況をモニタリングするため、高価な水分計を使わずに気化熱を利用して温度差データから乾燥度合いを測るデバイスを開発した事例発表があり、自作でも産業用デバイスに匹敵する可能性を示唆するものでした。ほかにも、設備稼働状況のリアルタイム可視化や、クラウドサービスを活用した品質管理の効率化など、現場の課題解決に直結するIoT活用事例が数多く発表されています。
鋳造IoTLTの意義は、単なる情報共有にとどまりません。顔なじみの企業が手軽にデジタル化に取り組む姿がほかの企業に刺激を与え、新たに挑戦する企業が増えています。その結果、鋳造業界では現場起点のIoT活用が広がり、他業界では見られないユニークな事例が次々と生まれています。
鋳造IoTLTは、経済団体や支援機関がデジタル化を推進するモデルケースです。顔の見える関係性の中で、デジタル化の取り組みとその成果を共有することが、周囲のデジタル化を促進する原動力となっています。このような好循環を生むためには、経済団体や支援機関がイベント開催を通じてコミュニティを形成し、情報共有を促進することが重要だという示唆を与えています。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史

◇大川 真史/おおかわ・まさし
ウイングアーク1stデータのじかん主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。専門はデジタル化による産業構造転換、中小企業のデジタル化。オウンドメディア『データのじかん』での調査研究・情報発信が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、エッジプラットフォームコンソーシアム理事、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。i.lab、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。

