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コラム

「2024年の世界経済の回顧と25年の見通しの留意点」


 2024年は、世界経済が23年まで続いた”荒波”をようやく乗り越えた年であった。ここでの”荒波”とは、パンデミック後のサプライチェーンの混乱から始まり、ウクライナでの戦争による世界的なエネルギー・食料危機、インフレ率の急上昇、それに続き世界各国で同時進行した金融引き締めなどである。国際通貨基金(IMF)によると、24年の世界経済は”荒波”が消え、「非常にレジリエント(回復力がある状態)であり、インフレ率が目標水準に回帰していく中、成長率は安定的に推移している」(24年4月「世界経済見通し」)という。24年10月「世界経済見通し」でも、総じて世界のインフレ率が低下する(世界の総合物価上昇率の年間平均値は23年の6.7%から24年は5.8%に低下する)ため、世界経済の成長率は「安定的に推移」するとしており、24年と25年はともに、3.2%の成長率になると予想した。
 国・地域別に主要地域の24 年の景気動向を実質GDP成長率(前期比年率)で振り返ると、米国は金融引き締めの効果により、年初1~3月期に前期比年率2%を割り込んで減速したが、4~6月期以降は3%程度の拡大となった。夏に雇用統計の悪化を受けて景気後退懸念が強まったものの、その後の経済指標の結果から米国景気の堅調さが確認され、金融市場が落ち着きを取り戻したことなどが背景にある。
 欧州(ユーロ圏)は23年の停滞(ゼロ成長)を脱し、2%近い成長率まで持ち直してきている。欧州中央銀行(ECB)はインフレの減速を受けて利下げを開始し、欧州域内の経済を下支えしたことが一因に挙げられる。日本経済に目を向けると、自然災害や自動車の工場稼働停止、実質賃金の回復の遅れなどもあって停滞感が強かった。
 24 年の日本の実質GDP成長率は▲0.1%と、ドイツの▲0.2%に次ぐ、主要7カ国の中で2番目に低い成長率になる見込みだ。この背景の一つとして、訪日外客数は増加したものの、中国の景気減速などを背景に中国人訪日客数が伸び悩んだことがある。他方、賃金・物価上昇の持続性が高まったことを受け、日本銀行は利上げを実施するなど金融政策の正常化が進んだ。
 中国の24 年の実質GDP成長率は、政府成長率目標(5.0%前後)を達成した。不動産不況が継続したこともあって経済は減速したが、大規模な景気てこ入れ策で成長率が押し上げられた。
 大和総研の25年の世界経済見通し[注1]では、日本1.6%、米国2.3%、ユーロ圏1.3%、英国1.4%、中国4.5%となっているが、これを阻害し得る最大の懸念は、トランプ大統領の政策であろう。まず、自由貿易体制は同盟国間であっても容易に形骸化し、仮に関税引き上げが実施されれば、各国間での保護主義政策の応酬に発展する恐れがある。次に、世界の企業行動にも影響する供給体制の構築については、自国優先や経済安全保障優先への対応が一層強まる可能性がある。三つ目、財政政策については、24年の各国選挙で与党が軒並み苦戦したように、国民の生活不安や不満が高まっており、新政権にはその対処が求められるが、財政不安や過度の金利上昇が懸念される。最後に金融政策では、日米欧中の四極間での金融政策のスタンスの差は当面広がっていくと見られ、まちまちな金融政策の方向性は、状況次第でマーケットの大きな変動をもたらし得るだろう。
 25年の世界経済は、昨年消えたはずの”荒波”が復活し、各国の経済が目指す正常化(ポストインフレ)に至るか、不確実性が高まる懸念がある。望ましくないインフレ再燃の芽は多く、そのレジリエンスが試される年となろう。

(1月20日執筆)

[注1]大和総研経済調査部、ニューヨークリサーチセンター、ロンドンリサーチセンター「主要国経済Outlook 2025年1月号(No.458)」24年12月23日

株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員
内野 逸勢

◇内野 逸勢/うちの・はやなり

静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。