欧州で売られているキッコーマンのグルテンフリーのスシソース(SUSHI SAUCE)のパッケージが、ユニークだとネット上で話題になっていました。ラベルには、巻きずしにソースがかかっている写真とメーカー名、英文の商品名があり、さらに日本語で「鰻のたれ」と書かれています。当地の日本人が見ればどんな味かすぐピンときます。味の想像がつかない現地の人にはすしに使うソースだということで、用途が伝わります。
もともと江戸前ずしは今のようにしょうゆを付けるのではなく、穴子や貝のだしにしょうゆやみりんなどを加えて煮詰めたツメと呼ばれるタレを付けて食べるものでした。ですから、欧州のスシソースはこれに近く、むしろ伝統的な味わい方ともいえます。しょうゆと酒、砂糖をベースに、焼いた鰻をくぐらせてうまみを増した鰻のタレとは厳密には別物ですが、欧州では両方の利用シーンをカバーする商品として売られています。同じ商品でもターゲットが異なれば訴え方が違っていて、分かった上でそれを使い分けた例ともいえます。
私が興味を持ったのは、地方の小規模な事業者でも、最初から海外市場を視野に入れてものづくりをすることが珍しくなくなっているためです。こうした商品名の付け方や考え方が、参考になるのではないかと思いました。国内では地方の市場は縮小し所得も伸びないため、価格の安さより高付加価値で勝負したい事業者はおのずと海外市場を向いています。例えば食品でアジア市場を狙うなら、最初からハラル対応を考えておくといったことです。今後は最初から商品開発をボーダーレスで捉えておく時代なのかもしれません。
もう一つ、同じ商品でも異なったシーンに使える商品企画という意味で、フェーズフリーという考え方が注目されています。特に防災対策を意識した分野で進み始めています。例えば、普段使っているデスクライトが、いざという時はライトの部分だけ取り外して持ち運んで使えるようになっているといったことです。オフィスで数多く使う書類整理ボックスを並べ、非常時に寝泊まりする際の簡易ベッドとして使う考え方もあります。
ものづくりだけでなく公共施設でも、こうした考えを取り入れた例が出てきています。5月末、北海道小清水町にオープンした町役場と併設している複合施設では、カフェレストランやコインランドリー、フィットネスジムなどが計画的に集められました。災害時に住民の避難場所として使うことを想定して、住民の食事や健康状態、衛生状態を快適に保つために必要な機能を集約しています。日常でも非常時でも役立つことを想定しているのです。
あらかじめ複数の意図を持ってものづくりやサービスを設計すると、提供する価値がぼやけてしまわないか心配になります。むしろ想定ターゲットと利用シーンをはっきりと把握しているからこそ、可能になる手法だと思います。自社で提供している商品やサービスが、実はほかの利用シーンで新しい価値を持つ可能性はないか、一度検討してみると、新しい発想を得るヒントになるかもしれません。
日経BP総合研究所 上席研究員 渡辺 和博
日経BP総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。


