「標準化と相見積もり回避で業績につながるDX」
今回は、工程管理を自動化して多品種少量生産を実現した金属板金加工業の事例です。北海道北広島市にある株式会社ワールド山内は、板金から溶接、組み立てまでを一貫対応する、地域でも有力なものづくり企業です。工業団地を拠点に短納期と高品質を両立させてきましたが、案件の多様化と人手不足が進む中で、従来の紙や経験に依存した管理には限界が見え始めていました。納期回答の迅速化、機械稼働の見える化、夜間の自動運転をいかに安全に運用するかが喫緊の課題でした。
同社が踏み出したのは、現場起点のDXです。受注から出荷までの各工程と設備稼働をデジタルで接続し、リアルタイムで状況を把握できる独自の工程管理基盤を整備しました。作業実績は現場入力に統一し、滞留やボトルネックはダッシュボードで即時に可視化します。結果として、多品種少量でも負荷を適正化し、24時間の自動運転と迅速な納期回答を両立できるようになりました。背景には挑戦を尊ぶ企業文化があり、スマートファクトリー方針の下で部門横断の改善が加速しています。
特徴的なのは、新規案件の見積もり依頼への対応です。図面が未添付の場合でも、社内で速やかにCADデータを作成し、工程別の標準工数や歩留まりを反映した原価モデルで試算して、妥当な概算見積もりを迅速に提示します。さらに生産負荷の状況をリアルタイムに把握できるため、納期案まで含めた回答が可能です。回答の正確性と速さが評価され、相見積もりに展開する前に受注に至るケースが増えています。根拠ある見積もりが営業力の中核となっているのです。
もう一つの取り組みは、標準化で整備した社内マニュアルの外部活用です。東京など遠方の発注者を北海道に招き、数日かけて製造の基本や品質の考え方を体系的に学んでもらいます。発注者にとって同社は信頼できる指導役となり、その関係性が年次の単価改定交渉を有利に進め、設計段階でコストダウンを目指すVA(Value Analysis)・VE(Value Engineering)提案も採択されやすくなりました。「現場知」をマニュアル化し、教育と商談に転用することで、価格に偏らない競争力を着実に高めています。
重要なのは、現場で機能する最小単位の標準化と可視化を起点に、顧客との学び合いを仕組みに組み込むことです。大掛かりなシステムに頼るのではなく、まずは1枚の表から運用を磨き込み、営業と生産を同期させる。こうした地に足の着いた取り組みこそが、短期の受注確度のみならず、長期の関係性と収益基盤を確かなものにしていきます。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史
◇大川 真史/おおかわ・まさし
ウイングアーク1st データのじかん 主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。デジタル化による産業構造転換や中小企業のデジタル化に関する情報発信・事例調査が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。経団連、経済同友会、経産省、日本商工会議所、各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。


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