ITを事例からひも解く「予約受付する部屋数を絞って利益改善 決断の背景に『データ』あり」

コラム

本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。長く続く業界においては、生活・行動の様式など顧客側の変化により、従来は「常識」とされていたことを点検し、変えていくことも事業継続には欠かせません。福井県あわら市の旅館「ホテル八木」では、旅館の常識を顧客目線で見直し、個人旅行者に選ばれる旅館、そして従業員にとって働きやすい会社へと改革を進めてきました。そのプロセスは…?IT経営マガジン「COMPASS」2022年夏号から転載します(記載内容は掲載時点のものです)。

<会社概要>ホテル八木 福井県あわら市温泉4-418、創業:1883年、従業員数:14人(パート・アルバイトを除く)、事業内容:温泉付き宿泊施設、URL:https://hotel-yagi.co.jp/

 デザイン性が高いチェアが置かれたライブラリーゾーンや、庭園に面したくつろぎスペース。そして夕食やスイーツ、お酒も含まれたオールインクルーシブ型のサービス。ここに泊まれば日々の喧騒(けんそう)を忘れてリラックスできそうだ。しかし訪問した日は人が見当たらない…。

「今日は休館日なのです」

 福井県あわら市のホテル八木・八木司常務は笑顔で種明かしをした。

 現在は全73室のうち20室程度を稼働し、月に10日は休館する。それにもかかわらず、10年前に比べ利益が向上している。

 兄弟で経営を引き継いで7年。ネット予約への対応、団体から個人客へのシフト、旅館では定番のお出迎えや部屋食は行わない…と改革を続けている。周囲は唖然(あぜん)とした。

 「以前に比べ旅館は選ばれにくくなっており、団体は確実に減少します。つまり、商品を変える必要がありました。実行できたのはデータの裏付けがあったからです」

 ネットからの予約状況と仕入や原価の費用、さらにITコーディネータ栃川昌文氏のアドバイスで、「人件費を変動費ととらえて稼働時間を加味」し、日々の利益状況を明らかにした。

 一般にはピーク時に合わせてスタッフの人数を決めるが、通常日には手が空いてしまうこともある。全体を見て稼働率とスタッフ数の“最適ライン”はどこにあるのかを探求したのである。

 予約数から必要スタッフ数を予測し、実績と比べる仮説検証を3年ほど繰り返した。その結果、休館日をつくることで、スタッフを繁忙日に集中させつつ、休みもきちんととれるシフトを見いだしたという。

 八木常務は、「お客様にとって価値が低い“旅館の常識”はそぎ落とし、価値の高い部分に力を注いでいます。そして、1人のスタッフがその時間帯に必要な業務をこなすマルチタスク化を進めています」と説明する。

 チェックイン業務が終わったらスタッフは調理場に移動して洗い物を手伝う。こうすればレストランが閉店する1時間後には帰宅することができるのだ。清掃はすべて内製化し、外注費を0円にできた。

 データはスタッフと共有している。

 「日次のデータを提示し、こうすれば黒字になる、と説明すれば、行動の意味をわかってもらえます。この点でもデータの役割は大きいです」と八木常務は力を込める。

 次は客室のインフォメーションをIT化し、地域のお勧め情報を配信するなど、滞在をさらに楽しんでもらえるようにしたいとのことだ。

【事例からヨミトル】

・「うちの業界はこうだ」と決めつけていませんか。お客様側は変化しており、今は「そのサービスはいらない」ということがあるかもしれません。

・人件費の割合が大きいサービス業では、情報をIT化し、原価計算の際に人件費も加味して計算してみましょう。

・データの共有によって、スタッフは経営者が目指すものを理解しやすくなります。

IT経営マガジン「COMPASS」編集長
◇石原 由美子/いしはら・ゆみこ

アップコンパス代表。教材編集や講師業を経て、情報処理技術者試験の書籍編集、モバイル分野の雑誌編集を担当した後、IT経営マガジン「COMPASS」https://www.compass-it.jp/の編集に携わる。中小企業支援機関・支援者と連携しながら、中小企業が主体となる等身大のIT活用をテーマに、全国の事例を取材し、その本質を伝えている。各地の商工会議所においても、IT活用事例・DX入門等のセミナーを担当。