「能登が教えてくれる持続的情報発信の大切さ」
先日、能登半島の輪島市を訪ねてきました。2024年1月1日の地震と同年9月の豪雨で大きな被害を受けました。地震発生からもうすぐ2年がたつというのに、金沢から能登に向かう自動車道「のと里山海道」は、まだまだ工事箇所が多く、上下合わせて1車線しか開通しておらず、片側通行になっている場所がいくつもありました。
輪島市内に入っても、そこかしこに傾いたままの電柱が目に付き、崩壊の危険があっても手を付けられず放置された家屋も多数見られました。能登半島で屈指の観光地だった輪島朝市が開かれていた場所は、火災もあり大きな被害を受けましたが、その一帯の建物やがれきは全て撤去され、わずかに草が生えるだけの更地になっていました。中心を貫く道の脇に数本残された街灯に往時の面影が少し残っています。現在は改めて最新の建築基準で区画割りを引き直し、ようやく再興に向けたスタートを切ろうとしている段階です。
輪島市郊外の景勝地で、世界農業遺産「能登の里山里海」の象徴でもある白米千枚田は地震による地滑りや豪雨の影響が深く残り、ようやく一部が再生されて利用が始まったところです。1004枚の水田のうち再生されたのは250枚程度とのことでした。
恥ずかしながら、実際に足を運んでみるまで、その甚大な被害の状況と復興にまだまだ時間がかかる実情は知りませんでした。ニュースなどで情報発信をするのは主にメディアの仕事ですが、発生から時間がたった被災地を報道で取り上げるときには、どうしても復興に向けて前向きに動き出した部分に注目して伝えようとします。そのため、報じられる情報は、結果として良い動きの部分だけが切り取られ、ともすれば明るい話題ばかりが伝えられることになってしまいます。以前メディアにいた人間として自戒を込めて言いますが、こうした事情を踏まえて、被災地から発信される情報については受け取る側が感度を高め、聞こえてくるニュースの背後にある実態とそこに暮らす人たちの気持ちに思いをはせる必要があると思います。能登の事例は、あふれる情報に囲まれて私たちが日々情報を消費していることを教えてくれました。これは現代の暮らしでは避けて通れないのかもしれません。逆に、情報を発信する立場になって考えると、どんな小さなことでも持続的に情報を発信することの大切さを改めて感じました。
私事ですが、今回、輪島を訪問したことをきっかけに、輪島塗の箸を家族の分も含め、新しく購入しました。実はそれまでも輪島塗の箸を使っていましたが、改めて日常の中で、能登のことを意識するためです。これはマーケティングの観点でいえば、生産地を応援したいというエシカルな消費行動でもありますし、モノを通じたエンゲージメント(絆)づくりとして、地域発の製品自体が情報発信に一役買っている例だともいえます。
現実を見れば、能登が普通の生活環境を取り戻すだけでもまだ何年もかかると感じます。その間、一人の消費者としても持続的に応援し続けたいと思います。
地域経済アナリスト/コンサルタント
渡辺 和博
◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ
合同会社ヒナニモ代表。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌の編集を担当。その後、日経BP 総合研究所 上席研究員を経て、2025年4月から現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。

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