「鉄道車両の譲渡の深い意味」
「ノーサイド」の精神は、ラグビーなどスポーツの世界だけのものではないようです。今年5月、鉄道業界でもノーサイドといえるような出来事がありました。それは「小田急電鉄から西武鉄道への車両の譲渡」です。
両社はともに大手私鉄で、小田急電鉄は東京から神奈川県西部、西武鉄道は東京から埼玉県西部を拠点としています。沿線は重なっていないものの、両社は戦後早々、箱根での交通と観光の主導権を巡り、戦いを繰り広げていました。訴訟もあり、時には運輸大臣を巻き込むほどの激しい争いが20年以上も続いたため、「箱根山戦争」とも呼ばれています。この戦いは1968年に終結し、その後は共存関係になりましたが、本格的に業務提携を行ったのは2003年のこと。騒動が始まってから実に半世紀以上もたっていたのです。その両社が先日行った鉄道車両の譲渡は、まさに本業の鉄道事業での協力で、箱根山戦争の本当の終結ではないかといわれています。「戦いが終わった後は、互いの健闘をたたえ和解する」ノーサイドの精神そのものではないでしょうか。
今回のような大手私鉄同士の車両譲渡は非常に珍しく、約50年ぶりのことです。大手は資金力があるため、自社の路線特性やイメージ戦略に合わせてオリジナル車両をつくることができます。それが沿線の雰囲気を醸し出してきました。ひときわ強いブランドになっている例は、関西で上品なイメージを持つ阪急電鉄で、マルーンカラー(茶系)に塗られた車両が人気を博しています。西武鉄道も長らく黄色い車両の電車をつくってきましたが、比較的古いため、省エネを目指す上では課題がありました。そこで今回のように、他社から中古車両を購入することに踏み切ったのです。新車を開発するよりコストが削減でき、SDGsへの貢献や環境負荷の低減にもつなげられるメリットがあります。最近は複数の路線をまたぐ大規模な直通運転が行われるようになり、他社の車両が路線を走ることが多くなっていますので、昔ほど独自車両で沿線のイメージをつくる必要はないのかもしれません。
小田急電鉄から西武鉄道への車両輸送では、沿線に多くのファンが詰め掛け、移送の様子を撮影していました。小田急の車両が西武の車両につながれて走り、まるで手を取り合っているかのような象徴的なシーンでした。今回の大手私鉄同士の協力は、相手を認め合う姿勢を改めて考えさせられる出来事です。ノーサイドの精神が軽視されがちな昨今、手を取り合うことの大切さを心に留めておきたいですね。
気象予報士兼税理士
藤富 郷

◇藤富 郷/ふじとみ・ごう
気象予報士、税理士。埼玉県三郷市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。大学院在学中に気象予報士に登録。日本テレビ「スッキリ」に気象キャスターとして出演しながら税理士試験に合格し、2016年に開業。21年に越谷税務署長表彰受賞。趣味の鉄道では、鉄道イベント出演や時刻表、鉄道模型雑誌にコラムを寄稿。プログラミングやダムにも造詣が深く、”複業”として得意を組み合わせて幅広く活躍中。地元の「三郷市PR大使」を務めるなど、地域との関わりも深めている。
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