先日、愛知県の伊良湖岬の近くで春菊やニラなどの野菜を育てている吉田園を訪ねてきました。抗生物質などの薬を与えずに育てた豚のふんから堆肥をつくり、農薬を使わないで野菜を育てることに徹底してこだわっています。地元の高級フレンチレストランのシェフが足しげく通う農園で、その取り組みはテレビなどでも紹介され、ネット直販を通じたファンが全国にいます。
農薬を使わないで野菜を育てるのは、安心・安全という付加価値を生む一方で、雑草や害虫などの駆除や対策に膨大な手間を必要とします。しかもその手間によるコスト上昇分を全て販売価格に転嫁するのは難しいという現実があります。
こうした中で吉田園のビジネスを支えているものの一つに、吉田さんが「部活」と呼ぶ、ボランティアによる雑草取りや害虫駆除などの作業提供の仕組みがあります。近隣だけでなく、名古屋市や東京近郊からこの活動に参加する人が数十人もいるそうです。
部活は基本的に無償参加ですが、お礼にそのときどきの野菜を持ち帰ってもらっています。健康維持のため、ストレス解消のため、子ども連れで参加して食育や自然に触れ合う教育のためなど、参加者の目的はそれぞれ。参加する側も大いに農作業を楽しんでいるそうです。地域の人口が減り、人手不足が慢性化している状況の中、高付加価値なビジネスをつくりたいと考える地方の事業者にとって、多くの示唆がある例だと思いました。
事業者がビジネスを回していくためには、大きく「ヒト、モノ、カネ、情報」の四つの経営資源が必要だとされています。いずれも地方の中小企業には十分だとはいえません。カネについて、例えばクラウドファンディングは、地域外の人からも直接支援を受け付ける仕組みです。ただ、クラウドファンディングでは、サービスを提供する事業者に15~20%程度の手数料を支払う必要があることや、あらかじめ返礼品のコストを見込んでおかなければなりません。人件費をダイレクトに削減できる吉田園の部活に比べると、実質的な支援の効果は薄まってしまいます。
部活では、お礼に採れた野菜を持ち帰ってもらっていますが、たくさん採れて余裕のあるものや、少し形が悪くて市場で売りにくいものを使うため、コストはさほどかかりません。そもそも、部活で汗を流すこと自体が、部員にとってのメリットなため、お礼の品を豪華にする必要がなく、事業者のコスト負担は小さくなっています。
人口減少や高齢化によって、地方で人材の手当てはどんどん難しくなっています。物理的な作業を求める人手としてだけでなく、例えば都市部の大企業で培ったビジネススキルを必要な時期だけ、適切なコストで地方に受け入れるための仕組みもいろいろと考えられています。いわばよそ者が地方の付加価値づくりを支える仕組みです。これが成功するために大切なことは「良い関係を生んでいるのはおカネではなく善意」という点だと思います。
日経BP総合研究所 上席研究員 渡辺 和博
◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ

日経BP総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。

