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コラム

「『内輪受けマインド』に宿る危うさ」


 この1カ月に金沢と広島を2度ずつ訪れる機会がありました。ともに現在、全国的に見ても有数の活気ある地方都市の代表例といえそうです。北陸地方の中核都市である金沢は、北陸新幹線の金沢開業から10年たち、その後も駅に大規模な商業施設が次々とオープンしています。インバウンドや首都圏からの若い女性客の来訪で大変なにぎわいを見せています。週末だけでなく平日でも駅の商業施設には観光客があふれていました。施設内の人気飲食店には長い行列ができるほどでした。
 一方、中国地方の中核都市である広島も、JRの駅ビルの2階に、市内を走る路面電車が直接乗り入れるように改修されたことで、地域住民だけでなく多くのインバウンドを含む観光客にとっても利便性が大きく向上しています。
 金沢も広島も、駅周辺や中心市街地の都市開発・整備はまだ続いています。新たな商業施設やオフィスビル、高層住宅が生まれ、この先しばらくにぎわいをもたらしそうです。
 にぎわいを見せる二つの都市ですが、「よそ者目線」でまちが提供している価値を見直してみると違いが見えてきます。金沢は、特に駅と周辺施設については、顧客ターゲットは明確に三つ設定されていることがはっきり分かります。まず、先に挙げたインバウンドと首都圏からの若い女性客。それと地域住民(主に周辺エリアから電車通勤をする働く男女)です。前二者は日本と金沢周辺エリアの食と伝統文化を求めていますから、それに関連するモノと情報を提供する手段や店舗、コインロッカーなどの設備が充実しています。全体に高級感があり、若い女性が好むようなおしゃれでかわいいデザインの重要性を事業者も施設運営側も共通認識として持っているようでした。逆にどこを取っても、いわゆるオジサン好みの”ダサい”デザインのモノやサービスは見当たりません。案内板や案内所など情報提供もよく考えられていますし、女性客が重い荷物を持ち運ばないで済むよう預かりサービスも充実しています。顧客の属性とニーズを把握して手を打っており、そうしたものが全体としてまちのブランドづくりに貢献しています。
 一方、広島は地域住民の人口や抱える商圏の広さもあるのでしょうが、さまざまなモノやサービスが主に地元向けにデザインされていると感じました。商品名や情報提供も方言を多用するなど、外から来る人の志向や利便性を優先するより、いわば”内輪受け”のテイストを強く感じるものが多いように思います。地元の「知ってる人」優先が前提です。中心市街地に建設された新しいサッカー場の「エディオンピースウイング広島」を訪ねたのですが、試合のない日に特段客を集めたり楽しませたりすることはあまり考えられていないようでした。受け皿となるサービスも少なく、観光客目線での道案内や情報提供も乏しいと感じました。せっかくつくった施設の日常的価値の可能性を狭めているのが残念でした。地元優先の価値観は地域の結束を強める一方、顧客層や市場を広げる邪魔をする面もありそうです。

地域経済アナリスト/コンサルタント
渡辺 和博

◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ

 合同会社ヒナニモ代表。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌の編集を担当。その後、日経BP 総合研究所 上席研究員を経て、2025年4月から現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。