「ブームに乗るか?追いかけるか?先回りするか?」
「もうはまだなり、まだはもうなり」。最後の相場師といわれた是川銀蔵が著作の中で紹介し、株式投資のタイミングを読む極意とされる言葉です。目先の利益や感情にとらわれないで、起きている現象を冷静に観察して決断する難しさを指摘しています。
ヒット商品も時代との関係で生まれますから、新しい商品やサービスの開発についてもこの考え方は通じます。先日、国産のウイスキーに関して東京都内で有数の品ぞろえを持っているバーの店長と話をしていて、「過熱気味だった国産ウイスキーブームに陰りが見え始めている」と聞きました。市場では高い人気が保たれていて、新規のファンもまだ増えている状況ですが、一部のプロは、需要と供給のバランスで供給が上回りつつあると感じ始めています。「業者の間でもなかなか手に入らなかった品物がちらほらと入手できる状態で出回るようになってきた」ということから、肌感覚でそろそろバブル的なブームは収まるだろうという判断です。こうしたわずかな兆候を見逃さず先を読んで在庫調整などの手を打つそうです。故事にある「一葉落ちて天下の秋を知る」の感覚なのでしょう。
ピークが見え始めた状態でも、これからこの分野に参入しようとしている企業がいくつもあると、その店長は心配していました。参入は、まだまだ市場は拡大すると読んでのことでしょう。こうした企業の製品が市場に出るのはしばらく後になりますから、そのときに市場の需要と供給の関係はどうなっているでしょうか。
この話を聞いて、しばらく前に聞いた国産ウイスキーの製造を手掛けている地方企業の社長の話を思い出しました。その社長は、「今のブームはそう長く続かないから、無理してつくったり売ったりはしない。宣伝もしない。日本の製品を高く評価する海外のお客さんがどうしても欲しいと買いに来た場合は売っている。その売り上げで、将来本当に世界で勝負できる品質と個性を備えた商品を長期的な視点で開発する」と言っていました。
今のブームにはあえて乗らず、ブームが過ぎて淘汰(とうた)された先で、きちんと評価されて生き残るための開発は怠らないという考えです。これも「時代の変化を読んで網を張る」という冷静な判断に基づいた一つの戦略だと思います。
ブームを追いかけることは簡単ですが、それでちゃんと持続的に利益を出せるのか考える必要があります。一方ブームが本格的に起きる前に自ら仕掛けるには多額の広告宣伝費用がかかることが多く、中小企業には簡単ではありません。ブームが起きたとき、その先でちょうどよい商品がすでにできていて待ち構えているというのが中小企業の理想です。
日本のものづくりは概して丁寧でレベルが高く、短期間でも良いものをつくることができるケースが多くあります。逆に言えば、少し出遅れても頑張ればブームに間に合ってしまうという面があります。しかし、せっかくの投資を持続的なビジネスにつなげるには、ブームの後先を読んで冷静に対応する姿勢が重要になってきます。
地域経済アナリスト/コンサルタント
渡辺 和博
◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ
合同会社ヒナニモ代表。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌の編集を担当。その後、日経BP 総合研究所 上席研究員を経て、2025年4月から現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。

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