トレンド通信

コラム

「プレッシャーを背負って頑張る名店の二代目を応援」


 山形新幹線の終点・新庄駅から歩いて3分ほどの所に、「味おんち」というちょっとひねった名前の飲食店があります。「高橋日東商店」という酒屋の一角に、いわゆる角打ちとして「味おんち」はあります。7~8年前に初めて訪ねて以来、新庄やその近辺に行く機会があれば必ず寄るようにしています。80年ほどの歴史ある酒屋が扱う古今東西の銘酒が、東京では考えられないような価格で提供されます。また、お酒に合わせた和洋中の料理も秀逸です。
 一昨年の初めに先代が亡くなり、現在は息子さん夫婦と先代の奥さまが店を切り盛りされています。私が引かれたのは、お酒や食に関する圧倒的な情報量だけでなく、どこまでも謙虚で穏やかな先代と奥さまの山形言葉を聞くことで、それが楽しみでした。私のようなファンは多く、地元よりも近隣の県や首都圏から多くの客がこの店を目的に新庄を訪れているそうです。
 行くたびに新しい知識に出合え、新しい体験ができる場所は、いま寡黙な二代目が引き継いでいます。過去数十年にわたって仕入れた逸品も、お客さんに提供しているうちにいずれ無くなってしまうでしょう。二代目はこの先何年、何十年後にも自信を持ってお客さんに出せる品を仕入れるため日々奮闘しているのだと思います。
 こうしたタイムカプセルのようなビジネスは、資金繰りや在庫管理の面でとても運用が難しいと思われます。ぜひとも長く続けてほしいと応援したくなります。
 このまちへ行くと必ず訪れる、という店はほかにもいろいろとありますが、たまたま新庄へ行く10日ほど前に訪れた静岡県三島市の「若鳥」という店も2019年に代替わりして、二代目が引き継いでいます。こちらは創業60年以上になる鳥から揚げの専門店です。祖母が始めた店を孫が引き継いだ形です。この店のから揚げは、一羽を四つに分けたサイズで提供されます。モモ、手羽で半身、2個ずつで一羽分の大きさです。ほぼ素揚げで塩だけの味付けなのに、なぜかたくさん食べられてしまいます。
 先代のとき全国コンテストで賞を取っていましたが、代替わりしてからも昨年、「第14回からあげグランプリ」の「素揚げ・半身揚げ部門」で最高金賞を受賞しています。全国的に評価されているのれんを引き継ぐプレッシャーは大きいと思われますが、こちらもぜひ長く続いてほしいと思います。私自身は30年ほど前に初めて行って以来、近くで仕事があるときは、できるだけ宿泊を三島に変更してでも訪ねるようにしていました。
 今回は、個人的な話ばかりで恐縮ですが、旅の最大の楽しみはこうした「無理をしてでも行きたい場所」や「会いたい人」を訪ねることと、また次にそう思えるようになる新たな出会いにあるのだと思います。先日東京ビッグサイトで開かれた「ツーリズムEXPOジャパン」の会場で、さまざまな地域ごとの魅力発信や、グルメ、スポーツ、アカデミア体験などの展示を見ながら、行動変化を促すような本当の魅力は、もっと個別でピンポイントなところにあるのではないかと感じていました。


 

日経BP 総合研究所 上席研究員

渡辺 和博

 

◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ

 日経BP 総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。