「明日は千葉で田植えです」。打ち合わせをしていた高島屋の和菓子バイヤーさんがそう言うので事情を聞くと、同じ部署の人たちと交代で毎年田植えに参加しているとのこと。そこで育てたもち米は老舗の和菓子屋さんに納入され、それを原材料につくられた和菓子が高島屋で販売されているそうです。普段、和菓子を売る立場の人が、原材料づくりの第一歩から体験することで、商品に対する知識が深まり愛着も湧きます。こうした経験に基づいて、商品やその原材料をつくってくれる人への感謝の気持ちを持って販売に臨めるといいます。
中国の故事成句「飲水思源」とは、受けた恩や物事の基本を忘れないという意味ですが、まさにそれを地で行くようなエピソードだと思いました。
小売業やサービス業など直接お客さんに接する業態では、こうした考えで生産者さんを訪ねたり、自らものづくりを経験したりする例はたくさんあります。特に食品で顕著ですが、スーパーやコンビニだけでなくどんな売り場でも、消費者は手に取った商品をひっくり返して原材料や生産地、生産事業者を確認します。それだけ商品の上流をさかのぼるトレーサビリティーに対する要求を持つ消費者が多いということです。
一方で、食品の分野でも普段消費者と接することのないBtoBの事業では、自社の製品をずっと川下まで追いかけて行く例は少ないような気がします。最終的にどこへ行くのか把握できないケースも多いためです。
和歌山の梅農家でこのような話を聞きました。そこで出荷される梅を使った梅酒はとても人気が高く、シンガポールや香港など海外でも売られています。国内向けには高品質のブランドとして売られる梅酒に使われていますが、海外市場ではディスカウントショップのルートを通じて、格安の梅酒という位置付けで売られていたそうです。
これは、海外向けの梅酒製造を手掛けるメーカー向けに原材料を卸している商社が、まとまった量を安く仕入れて、特に高品質というブランディングもしないまま酒造メーカーに売ったためです。生産者としてはいったん商社に売ってしまったら、その先はどうなっているか知ることも、コントロールすることもできません。つくり手としては、本来どのチャンネル、どの地域でも高級な原材料というブランドを確立したいのです。
近年、地方発のものづくりでは、従来BtoB向けのビジネスしか手掛けてこなかった事業者が、消費者向けの商品に進出する例が増えています。農業や水産、畜産でいえば生産者が原材料を加工して商品をつくる、いわゆる「6次化」もその流れの一つです。6次化をうたう商品が多くのケースでうまくいかないのは、消費者の感じる価値と価格の関係を、生産者がよく理解できていないことが原因の一つではないかと思います。
原材料の生産から加工、製造、販売とさまざまな立場があります。時には自分のビジネスの上流や下流を徹底的にたどることで、価値の発生源を再確認してはいかがでしょう。

日経BP総合研究所 上席研究員 渡辺 和博
◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ
日経BP総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。

