中小企業のためのDX事例

コラム

「スタートアップのアイデアを形にする町工場」


 今回は、スタートアップと地場産業の価値共創プラットフォーム事例を紹介します。
東京都墨田区に拠点を構える金属加工メーカー、株式会社浜野製作所は、2000年に隣接する工場からの火災で設備や資材を失うという存続の危機に直面しました。この困難を「ものづくりをゼロから考え直す機会」と捉え、下請け依存型のビジネスモデルからの脱却を目指しました。その一環として14年、工場敷地内の一画に「Garage Sumida」を開設しました。
 この施設は、スタートアップの試作開発や製品化を支援する場であると同時に、地場産業やグローバル企業との連携を通じた共創の拠点でもあります。アイデア段階から試作、製品化まで、浜野製作所の職人たちがものづくりの知識や技術を駆使し、複雑な部品の加工や設計を支援しています。また、デジタル技術を補完的に活用することで、高精度で効率的な製品開発を実現しています。
 例えば、台風の風力を利用して発電するユニークな風力発電装置を開発した「チャレナジー」は、試作開発の段階から同施設の支援を受けました。また、スマート電動車椅子のパイオニアである「WHILL」の製品開発や、分身ロボット「OriHime」を手掛けた「オリィ研究所」の試作支援も行っています。これまでに300を超えるスタートアップに関わってきました。
 浜野製作所の特徴として、人材交流と地場産業連携が挙げられます。例えば、トヨタ自動車のエンジニアを受け入れ、同社の職人やスタートアップのメンバーと協力しながら技術課題を解決することで、全員のスキルや知見が向上する好循環が生まれています。また、地元墨田区で行われる地場産業の魅力や技術を発信するイベント「スミファ」に10年以上参加し続けており、製造業になじみのない地域住民が直接工場を訪れて、ものづくりの一端に触れられる機会をつくっています。さらに子ども向けの体験イベントも運営しており、次世代にものづくりの楽しさを伝える活動も展開してきました。また、これらの企画・運営を若手社員が担当することで人材育成の機会にもつなげています。
 「Garage Sumida」の意義は、単に製造支援を行うだけでなく、スタートアップ、大企業、地域社会が相互に影響を与え合いながら成長するエコシステムの一翼を担う点にあります。これらの取り組みは、地域経済やスタートアップエコシステムの発展における模範的な事例として、今後のさらなる展開が期待されています。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)

ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆

大川 真史

 

◇大川 真史/おおかわ・まさし

 ウイングアーク1stデータのじかん主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。専門はデジタル化による産業構造転換、中小企業のデジタル化。オウンドメディア『データのじかん』での調査研究・情報発信が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、エッジプラットフォームコンソーシアム理事、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。i.lab、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』