「石破内閣『地方創生2.0』に重要な要素」
最近、意味合いが異なる微妙な言い回しの違いが、ことさら気になる。例えば、「年を取る」と「年齢を重ねる」は、表現が違い、意味合いも異なる。前者は、単純に年齢が増して、心身ともに衰えていくことと少し否定的に捉えられ、後者は経験を重ねていき、心身ともに成熟し、円熟味が増すと肯定的に捉えることができよう。このように言い回しを微妙に変化させることで、人にその言葉を肯定的に捉えさせ、何かに自発的に取り組むことを促せる。ただし、人それぞれの置かれた状況によって、微妙に差異のある言い回しの捉え方は異なることに留意が必要であろう。
このようなことを考えさせられる状況に遭遇した。筆者が委員を務める袋井市総合計画審議会でのことである。直近の審議会において、市側から総合計画素案[注1]が提示された。その中に、「賑わい(にぎわい)」という言葉が記載されており、その言い回しが適切か否かの議論となった。にぎわいを創出することで地方を元気にするという意味合いである。にぎわいは活気があると言い換えることができる。参加者は、にぎわいは「活気がある」よりも特徴的であると好意的に受け取る委員と、適切な表現かどうか分かりにくいと否定的に捉える委員に分かれた。さらに、にぎわいを捉える人の置かれた状況によっても、その捉え方は異なるという意見もあった。例えば、都会からUターンしてきた人にとっては、都会にはにぎわいがあり、人と人の距離が近いように感じるが、地方は地元のコミュニティに壁があり、にぎわいがあっても、その距離が遠いとの指摘があった。とはいえ、にぎわいという言葉が袋井市民を地域活性化にコミットさせるかどうかの真剣な議論が、審議会委員の間で展開されていた。
その一方、微妙な言い回しは、自分が意図する特定の意見や思想に人々を誘導するため、もっともらしい議論を展開する手段として悪用されることがある。そこには微妙な言い回しが表す強烈なインパクトが重要視されているように思われる。加えて、人工知能(AI)あるいはSNSの活用による「フィルターバブル」[注2]「エコーチェンバー」[注3]現象を発生させ、特定の意見や思想が増幅し、SNSのユーザーをはじめ、フォロワーにも広がり、インパクトが増す。その意味合いが正しいか、正しくないかの理解・判断よりも、自身の利得のためだけに、インパクトによって人を何かに支持させる「理解なき熱狂」があるように思われる。代表的な事例として、直近の米国大統領選挙運動、日本の国政選挙運動が挙げられる。これらにおいては、SNSの負の側面の影響は増大しているといえるのではないか。これによって、例えば、グローバルと一国の政策課題へ取り組む国民の意識、あるいは国政レベルと地方レベルの政策課題に取り組む国民(市民)の意識の乖離(かいり)が大きくなる弊害を生んでいる可能性がある。
前述のにぎわいは、実はSNS上では多数存在する。ただし、それらは、SNSでつながっている「閉じた世界」での限定されたにぎわいである。これらのにぎわいを重視する人が増えれば、オンライン上のバーチャル社会と実社会のにぎわいはますます乖離していくことも考えられる。これによって、例えば、前述の地方の課題に取り組む市民に影響を与え、地域社会に真剣に参加しなくなることも考えられる。その一方、実社会の地域も「閉じた世界」のにぎわいになりかねない可能性があると考えられ、それによって地域の社会に参加しなくなるケースもあろう。先ほどのUターンしてきた人の「地方の方が人と人の距離が遠い」という言葉が、それを如実に表している。これら両方に対処していくためにも、市民の意識を変化させる言い回しを考え、具体策を練り上げ、多くの市民を地域社会の身近な問題にいかに参加させていくのか、真剣に検討していく必要があろう。石破内閣の「地方創生2.0」は、これらの問題に丁寧に対処していくことを柱の一つに据えることが重要ではないか。
(11月20日執筆)
[注1]袋井市 企画部 企画政策課「第3次袋井市総合計画基本構想(素案)」https://www.city.fukuroi.shizuoka.jp/material/files/group/11/3th-sogo-keikaku_shingikai5_shiryou1.pdf
[注2]「アルゴリズム機能で配信された情報を受け取り続けることにより、ユーザーは、自身の興味のある情報だけにしか触れなくなり、あたかも情報の膜につつまれたかのような「フィルターバブル」と呼ばれる状態となる傾向にある。このバブルの内側では、自身と似た考え・意見が多く集まり、反対のものは排除(フィルタリング)されるため、その存在そのものに気付きづらい」(総務省(2023),「第2章第3節 インターネット上での偽・誤情報の拡散等」 令和5年版 情報通信白書)
[注3]「SNS等で、自分と似た興味関心を持つユーザーが集まる場でコミュニケーションする結果、自分が発信した意見に似た意見が返ってきて、特定の意見や思想が増幅していく状態は「エコーチェンバー」と呼ばれ、何度も同じような意見を聞くことで、それが正しく、間違いのないものであると、より強く信じ込んでしまう傾向にある」(出典は注2と同じ)hizuoka.jp/soshiki/4/2/sougoukeikaku/12578.html
株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員
内野 逸勢
◇内野 逸勢/うちの・はやなり
静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。


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