「老舗下請け企業が挑むデータ活用とデジタルサービス事業」
愛知県豊田市に本社を置く三井屋工業株式会社は、1947年に輸入雑貨で創業しました。輸入品を梱包(こんぽう)していた麻袋を捨てるのが惜しく、解いて反物にする事業を始めたことがきっかけで、53年から自動車の内装部品製造に進出し、現在までトヨタ自動車のティア1(一次請けメーカー)として事業を行っています。2018年のセレンディップ・コンサルティング株式会社(現セレンディップ・ホールディングス株式会社)との資本提携をきっかけに、DXに本格的に取り組み始めました。
三井屋工業のDXの始まりは、業務プロセスの見直しと現場のデータ化でした。まずはOffice365の導入からスタートし、業務連絡など社内コミュニケーションをチャットで行うようにしました。次に、業務日報ツールの導入を検討しましたが、高コストのため断念し、代わりに社内のIT担当者が自作した業務日報ツールを復活させました。このツールは開発当初、上層部に提案したものの採用されなかったのですが、現場データを正確に把握・管理し、業務の効率化を図るために適したものでした。
当時の製造現場はアナログ中心だったこともあり、完璧なデータ収集やあるべきデジタル活用を追求するのではなく、「今よりも正しいデータが取れたらOK」という考え方に基づいて進められました。デジタル化による現場の負担感を軽減するために、まずアナログでの記録を徹底し、デジタルツールを使うことの利便性を感じてもらうことにより、約3カ月でデジタル化が浸透しました。
定着のためには、現場の努力がデジタル化によって可視化され、報われる仕組みをつくりました。不良改善の際には報奨金が支払われる制度を設け、現場のモチベーションを高めました。これにより、現場の従業員は自分たちの努力が上層部から正しく評価され認められているという実感を持つことになり、デジタルツールの活用により積極的に取り組むようになりました。
さらに自社開発した製造現場マネジメントツールは、「HiConnex(ハイコネックス)」として展開しています。このツールは、当初は自社運用のために開発されましたが、工場見学した製造業の人たちからも高い評価・問い合わせを受け、外販できるクラウドベースのサービスとして提供することになりました。
製造業ではスモールスタート、アジャイル、プロトタイピングといったスピード感のある開発手法に抵抗感がある事例は多いのですが、今回の取り組みは現場と経営陣が近い中小企業だからこそ可能であり、迅速な意思決定と柔軟な対応ができたことが成功の鍵といえます。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
大川 真史

◇大川 真史/おおかわ・まさし
ウイングアーク1stデータのじかん主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。専門はデジタル化による産業構造転換、中小企業のデジタル化。オウンドメディア『データのじかん』での調査研究・情報発信が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、エッジプラットフォームコンソーシアム理事、特許庁Ⅰ-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。i.lab、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。

