潮流を読む「高まる企業の『正しく』もうける力の維持力の重要性」

コラム

規模の大小を問わず企業には「正しく」もうける力、それを組織として維持する力が、ステークホルダー(利害関係者)と投資家から、ますます求められている。昨今、企業の不祥事が発覚するたびにそのことを強く認識させられる。不祥事が発覚した企業の経営者の発言をメディアにおいて見聞きすると、コンプライアンス(法令順守)の問題以上に、企業としての「正しく」もうける仕組み、それを維持する仕組みの土台となる企業文化に問題があると感じる。ただし、「正しく」あるいは「正しい」ということは、企業文化の中心をなす価値観の問題である。その価値観を修正することが非常な困難を伴うのは言わずもがなだ。

 「正しい」とは何かということを企業の一人一人の社員に理解させることが難しいのは、各社員がその企業の社員として持つ意識、価値観、考え方が違うからである。プライベートでは異なっていても、社員として持つべき意識・価値観・考え方(=行動原理あるいはフィロソフィ)は共通であり、常に共有し続ける仕組みが必要だ。この仕組みの事例として有名なのが、「JALフィロソフィ」[注1]である。かつて日本航空(JAL)の会長だった稲盛和夫氏が、同社を再生させるために作成した。筆者は『JAL再生』[注2]を執筆した時に、その存在とそれを共有する仕組みを知った。2部構成という短さではあるものの、その中の各フィロソフィが意味することは、どれも「正しい」企業文化を形成し、維持するために必要不可欠な要素の本質を突くものである。

 「第1部 すばらしい人生を送るために」の第1章「成功方程式(人生・仕事の方程式)」として、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」と最初に掲げられている。企業ではなく、社員の人生・仕事の結果が組織の中心であることを意識させる。この方程式において最も重要なことは「考え方」であり、これが「正しく」意識され、価値観、考え方として企業に浸透していき企業文化として根付く必要がある。いくら強い熱意、高い能力があっても、「正しく」なければ、方程式が掛け算であるので、結果自体がマイナスになることを意味している。ただし、社員一人一人が「正しい」を判断することは難しい。

 社員一人一人が現場で「正しい」を判断するために、第2章では「正しい考え方をもつ」の判断基準、そのための考え方、姿勢、態度が掲載されている。その中には、1)「人間として何が正しいかで判断する」、2)「美しい心をもつ」、3)「常に謙虚に素直な心で」、4)「常に明るく前向きに」、5)「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」、6)「土俵の真ん中で相撲をとる」、7)「ものごとをシンプルにとらえる」、8)「対極をあわせもつ」が列挙される。禅問答のような項目ではあるものの、常に自ら考え続ける習慣をつけるための項目であると考えれば非常に納得がいくものである。最大の命題は1)であろう。「正しい」を判断するために、その後の七つの項目を日々習慣づける必要があると捉えている。例えば、七つの項目の中の3)と4)は謙虚かつ前向きな姿勢と態度を維持すれば、2)「美しい心をもつ」ことができる。さらに5)~8)では大局観を磨く考え方として、例えば中国の陰陽思想をベースとする「多・長・根」の原則の項目が並べられていると思われる。5)は多面的・複眼的に物事を見る「多」と、短期ではなく長期で見通す「長」、6)と7)は枝葉末節ではなく根本に注意を向ける「根」、8)は陰陽思想そのものであると解釈できよう。

 第2部では「すばらしいJALとなるために」という第1部で言及した個々の社員が中心となり企業が成り立っていることを意識させている。その上で、企業として必要な第1章から第5章までのフィロソフィが掲げられる。ただし、このフィロソフィを掲げるだけでは不十分であり、社員同士がこれらのフィロソフィをベースに、現場において真剣にぶつかり合うようなコミュニケーションが取れる仕組みが重要である。そのために例えば経営から現場社員までが交流できる研修が用意されている。

 前述の書籍を執筆してから10年以上たつが、このフィロソフィを考えさせられる場面が日々ある。全く色あせていないし、今のSDGsなどが重視される社会においてむしろ輝きを増しているとは言えないか。各企業において、それぞれのやり方で「正しく」もうける力とそれを維持する力の工夫と取り組みが必要不可欠になっている。(9月20日執筆)

[注1]日本航空ウェブサイト(https://www.jal.com/ja/philosophy-vision/conduct/)

[注2]引頭 麻実 編著 (内野 逸勢、宮内 久美、林 正浩、吉川 英徳)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月

                     株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員  内野 逸

◇内野 逸勢/うちの・はやなり

 1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)