日本経済は2023年4-6月期の実質国内総生産(GDP)が前期比年率6.0%増加した[注1]。市場予想を大きく上回り、これによって3四半期連続のプラス成長となった。同時にGDPの実額は過去最高値を更新することとなった。大和総研のエコノミスト[注2]は、その主因として「自動車輸出やインバウンド(訪日外客)消費が増加した一方で輸入が減少し、純輸出(外需)が大幅に増加したこと」を挙げている。ただし、「民需は2四半期ぶりに減少しており、GDP成長率が示すほど内容は良くない」とし、今後については「海外経済の悪化による輸出の下振れリスクなどには引き続き警戒が必要だ」としている。
その海外経済、大きく言えば世界経済については、7月にIMF(国際通貨基金)のエコノミスト[注3]は、「課題が残る中、経済成長は短期的には底堅さを示している」としている。「底堅さ」の理由として、1)サプライチェーンの混乱が収まってパンデミック前の水準まで回復したこと、2)労働市場が予想以上の堅調さを維持したこと、3)ウクライナ戦争に起因するエネルギー・食料品価格の上昇がピークを越えて急低下して世界的なインフレ圧力が予想よりも早く緩和したこと、4)3月に発生した米国とスイスの銀行部門の不安定さが現時点では抑制されていることを挙げている。この結果、IMFの標準シナリオの世界経済の成長率の予測(7月時点)では、23年については4月時点の予測から0.2%ポイント上方改定し、3.0%とした。ただし、22年の3.5%(推計値)から鈍化している。また、24年も同じく3.0%となる見込みとしている。世界のインフレ率では、22年の8.7%から、23年は4月の予測から0.2%ポイント上方改定して6.8%としている。さらに24年には5.2%まで低下すると予測されている。しかし、先に挙げたIMFのエコノミストは「バランスは依然として下振れ方向に傾いている」とし、前述した四つの「底堅さの理由」が下振れの要因になることを懸念していると考えられる。
1)については、経済安全保障問題などにおける米中の対立、それによる世界の地域経済ごとのブロック化など、サプライチェーンを構造的に混乱させるリスクがある。2)と3)については、各国中央銀行のインフレとの闘いが依然終わっていない中で、賃金の上昇が物価の上昇に追い付いていない国が日本を含め多く存在することが挙げられる。4)については、米国の格付会社のフィッチ・レーティングスが米国の主要銀行の格下げを検討しているなど、銀行の経営環境の厳しさが顕在化し、ここ数カ月回復傾向を示してきた銀行の非金融部門向けの貸し出しが鈍化し、金利負担の上昇も伴い、米国の企業・家計の経済活動にマイナスになることなどが挙げられる。加えて、中国景気の先行きの懸念が高まっている。大和総研の副理事長である熊谷亮丸氏は、中国の「GDPが1%下がった場合、世界の成長率は0.4%、日本は0.3%下押しされる」[注4]としている。これらを踏まえると、現状では、短期的なシナリオとして、景気悪化と景気回復の両方があると考えられよう。
世界経済の下振れ、上振れへの日本経済の「耐久性(レジリエンス)」を高めるためには、中長期的には、2)の労働市場の動向は非常に重要であろう。日本の上場企業はここ数年、物価が上昇してきていた中で、製造業では円安や半導体供給の改善などを理由に、非製造業では値上げやコロナ禍からの経済の本格的な再開の恩恵を受けてきたことで利益率が高まっており、賃金上昇を吸収する余地が拡大していると想定される。前述のように23年の経済成長率が22年より減速しても、労働市場が堅調に推移していく可能性は低くない。むろん、景気悪化の場合は、企業の利益水準が最高益を更新していても、企業が現状よりも雇用を縮小するリスクがある。その半面、景気回復の場合、短期的には雇用が回復しても、産出量がわずかしか増加しなければ、労働生産性は低下する。23年の春闘では明確な賃上げが行われたが、今後も持続的な賃上げをするためには、労働生産性を構造的に改善していくことが不可欠である。それらの企業の努力の積み重ねによって、日本経済の中長期的な世界経済の下振れ、上振れへの耐久性を高めることとなろう。言い尽くされてはいるが、結局は労働生産性の改善が政策の最優先事項であることに変わりはない。
(8月18日執筆)
[注1]内閣府が8月15日に発表した4-6月期の国内総生産(GDP)速報値。
[注2]神田 慶司、田村 統久「2023年4-6月期GDP(1次速報)」大和総研レポート、2023年8月15日
[注3]ピエール・オリヴィエ・グランシャ(IMFの経済顧問兼調査局長)「世界経済は軌道に乗っているものの、安心するのは時期尚早 ~課題が残る中、経済成長は短期的には底堅さを示している~」2023年7月25日、IMF、https://www.imf.org/ja/Blogs/Articles/2023/07/25/global-economy-on-track-but-not-yet-out-of-the-woods
[注4]日本経済新聞「世界景気、中国変調が影 日本は4~6月に6.0%成長」2023年8月15日
株式会社大和総研 金融調査部 主席研究員 内野 逸
◇内野 逸勢/うちの・はやなり

1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)
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