中小企業のためのDX事例

コラム

「薬剤師が開発する現場作業効率化のデジタルサービス」

薬剤師の山口洋介さんは、東京の神田神保町で調剤薬局を経営する傍ら、同業者である薬剤師にとって現場で役立つデジタルサービス開発も行っています。今回は、山口さんが開発したデジタルサービスをご紹介します。

 山口さんが開発活動を始めたきっかけは、薬局を開業した現場での経験にあります。開業当初は「ワンオペ」で多忙を極めていました。その状況を打開するために、市販のITツールやソフトウエアを探しましたが、いいものが見当たりません。そこで未経験ながらプログラミングを独学し、自分の業務効率化のためにいろいろなデジタルサービスを開発し始めました。

 初めに成果を上げたのは「ビッグデータ解析による薬品の棚配置の最適化」です。以前は薬を50音順で棚に並べていましたが、調剤実績データを分析して、頻出する薬の組み合わせを導出し、その組み合わせごとに近くの棚に配置することで、調剤時間を半分近く減らすことができました。

 次に成果があったのは、「スマートスピーカーを使った月次実地棚卸業務の効率化」です。これまで月次棚卸は、両手を使って錠剤数を数えてパソコンまで移動し、システム在庫と突き合わせていました。両手がふさがっていても耳と口は空いているので、当時販売し始めたばかりのスマートスピーカーを使うことにしました。錠剤を数えながら薬の名前を言うと、システム上の在庫数をしゃべってくれます。また払い出し実績も需要予測もできるので、「どのくらい出てる?」と聞くと過去数カ月の実績を答え、「どのくらい出そう?」と聞くと向こう数カ月の需要予測をしゃべります。これにより労力を5分の1くらいに減らすことができました。

 これらの自分のために開発したツールをSNSでシェアすると、同じ悩みを抱える同業者から多くの前向きな反応がありました。自分では気が付かなかった要望もいろいろと挙がり、すぐに実装して試してもらうということを続け、その結果デジタルサービスのスタートアップとして起業することになりました。

 「自分のために開発したツール」の象徴的なエピソードとして、スマートスピーカーによる応援機能があります。業務終了時に薬剤師がスマートスピーカーに向かって「ありがとう」と言うと、「お仕事頑張ってくださいね」と答えるものです。毎月この地道な業務を行っているのに誰にも褒められなかったが、このスピーカーに初めて応援してもらえたと感じる薬剤師が多くいたそうです。もしシステム開発会社に外注して、見積額が高いと感じたら真っ先に削られる機能ですが、薬剤師が開発し薬剤師が評価するとこの機能が実装されるのかと気付かされ、現場で使う人が開発する意義を改めて感じました。

(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)

ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆

大川 真史

 

◇大川 真史/おおかわ・まさし

 ウイングアーク1stデータのじかん主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。専門はデジタル化による産業構造転換、中小企業のデジタル化。オウンドメディア『データのじかん』での調査研究・情報発信が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、エッジプラットフォームコンソーシアム理事、特許庁Ⅰ-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。i.lab、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。