中小企業のためのDX事例「社長の試行錯誤と技術者の実践力」

コラム

 錦正工業株式会社は栃木県那須塩原市にある、従業員35人の鋳造業の会社です。「鋳造加工一貫生産」を掲げ、半世紀にわたるロングセラー商品「Vプーリー」をはじめ、さまざまな工業製品を製造しています。今回は同社が自分たちでつくり、使ってみた現場データ化のDX事例をご紹介します。

 社長の永森さんは「別にIoTやDXをやりたかったわけじゃない」とのこと。その背景には経営者として会社の課題に向き合ってきた経験があります。永森さんの入社時、社内では手書き伝票とそろばんが使われ、現場ノウハウは職人の暗黙知になっていました。経営するには社内で発生する事象をデータ化し、それに基づいて意思決定を行う必要がありました。

 ただ、システム構築への高額投資は難しく、自分たちでデータ化・DXを進めることを決意しました。まずは通信ネットワークや簡単なサーバー導入、次に使いやすい生産システムを自分たちでカスタマイズしながら構築しました。そして最大の課題は現場データの自動取得でした。永森さん自らプログラミング勉強会に参加するなど、いろいろと取り組んだものの、なかなか実装には至りませんでした。

 しかし、さまざまな活動に参画し仲間づくりと悩みの共有を続けた結果、鋳造とソフトウエアの知識を持つ技術者と出会い、入社してもらえることになりました。入社後2年半でライン稼働モニター、電気炉モニター、分析値モニター、木型・中子IC管理など、多くの重要情報のデジタル化を実現しました。ソフトやツールも無料可視化ツールのオープンソースソフトウエア、フィリップスやシャオミの民生品など、無料・格安でありながら最先端のものを積極的に使っています。

 このDX事例からは、経営者自らが調べて取り組むこと、そして勉強会など社外コミュニティへ何年間も積極的に参画し、貢献することの重要性を学びました。会社の外に出ることで思いに共感してもらえ、ハードとソフトが分かるエンジニアと出会えて、やりたかったことがスピード感を持って結果的に非常に廉価でできるようになりました。また導入過程も試作(プロトタイプ)ベースで試行錯誤型(アジャイル)に進められていますが、これも社長の正確な知識と明確な意思によって実施できていると思います。

(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)

                                                                  ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆

大川 真史

 ウイングアーク1stデータのじかん主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。専門はデジタル化による産業構造転換、中小企業のデジタル化。オウンドメディア『データのじかん』での調査研究・情報発信が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、エッジプラットフォームコンソーシアム理事、特許庁Ⅰ-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。i.lab、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。