本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。「給与を上げて社員の待遇をよくしたい」――多くの経営者の願いですが、生産性を高め、適正な利益を確保することが前提となります。 富山県の鉄筋工事業・旭鉄筋では、1つずつ異なる工事が赤字か黒字かを把握するため、原価管理に取り組んできました。コツコツと継続してきた結果、経営基盤を強化することができ、現在は業界全体の待遇改善を目指しています。「COMPASS」2019年春号から転載します(記載内容は掲載時点のものです)。
<会社概要>旭鉄筋株式会社 富山県富山市水橋開発277-11 富山三郷企業団地内 他に上市工場がある 設立:1991年(創業1969年)従業員数:20人 事業内容:鉄筋工事業 URL:https://www.asahi-tekkin.com/
採用情報に書かれている給与は「月給」制。富山県で鉄筋工事業を営む旭鉄筋は、地域の同業者がまだまだ‘日給’で人材募集をしているなか、月給制、さらに週休二日制を導入している。
「受注に波がある建設業では、固定給の場合、仕事が少ないときは経営が苦しくなるリスクもあり、なかなか踏み切れていません。しかし、人手不足が進み他の業界と人材の取り合いになれば、‘日給’というだけで、求職者からはじかれてしまうでしょう。業界を挙げての課題なのです」
代表取締役社長の井本秀治氏は、「入りたくなる業界」となるべく、待遇面を整えると同時に学生へのPRコンテンツ、動画など情報発信にも力を入れている。
同社は15年ほど前に、工事の原価を把握するITシステムを導入。日報にその日の業務を記録することからスタートし、独自のシステムを構築した。鉄筋そのものは発注者であるゼネコン(総合建設会社)から支給されるため、鉄筋の加工や工事の人件費、移動の経費などを原価として計算する。「1年が終わるまで利益状況がよくわからない」状態を脱出し、赤字受注の回避を目指した。
こうしたシステムは、スタッフ全員が作業時間等を毎日正確に入力することが前提となる。
「今では現場から戻ったら記録するのが当たり前になりましたが、慣れるまでは時間がかかりました。記録を忘れた人がいるとデータが不正確になりますから。途中、諦めそうになったこともあります。顧問をお願いしているITコーディネータの方が、都度、『何を実現するために原価管理システムを導入したのか』を確認してくれたのが大きかった」と井本社長は振り返る。
原価管理を徹底してからは、データをもとに価格交渉を行うこともある。「ただお願いするよりも、数字で詰めていくと納得していただけます」という。
社員に毎月安定的に給与を支払うには、どんぶり勘定ではなく、適正な利益を確保していくことが欠かせない。「目的」に向かってシステムを使い続けてきたことが、旭鉄筋の力になっている。
さらに、工事の見積書を出すための積算(工事に関わる材料や人などの費用を積み上げること)作業の効率化を図るため、アーキテック社の「拾之助」を導入した。鉄筋工事の図面情報に基づいて寸法等を入力すると、積算に必要な部材を拾い出して重量などを自動積算するソフトウェアだ。導入後は、見積書の作成時間を以前の5分の1に短縮できた。
「高度経済成長期は、職人の給与は高かったのです。建設業は今の1.5倍、2倍の給与を出せるような業界でありたい。そこを目指しています」
井本社長は、さらなる成長と業界全体の待遇改善を目指し、鉄筋を加工する工場の拡張なども検討しながら、コツコツと「攻めの経営」を推進している。
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【事例からヨミトル】
・受注一つひとつに対して、利益を把握するためにITシステムを活用し、原価管理をしておきましょう。次の見積作成や交渉に役立ちます。
・システム導入のときはもちろん、運用を成功に導くためにも、ITコーディネータなど専門家の活用は有効です。
・魅力ある職場・職種として選ばれるために、取り組むべき優先課題を見いだしましょう。

IT経営マガジン「COMPASS」編集長
◇石原 由美子/いしはら・ゆみこ
アップコンパス代表。教材編集や講師業を経て、情報処理技術者試験の書籍編集、モバイル分野の雑誌編集を担当した後、IT経営マガジン「COMPASS」https://www.compass-it.jp/の編集に携わる。中小企業支援機関・支援者と連携しながら、中小企業が主体となる等身大のIT活用をテーマに、全国の事例を取材し、その本質を伝えている。各地の商工会議所においても、IT活用事例・DX入門等のセミナーを担当。

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